ざく、

鋏を大きく入れ、そのまま刃を閉じひと思いに切り落とす。


ざく、ざく。


ぱさり、
バスルームに長い髪が散らばって、鏡の中の私は左右非対象な乱れたショートカットになった。



彼に好かれるよう艶やかな髪でありたい。

そう思って丁寧に手入れしていた髪を切り捨てて、私は自分が失恋した事実を再度確認し、受け入れる努力をする。



(名前…君、自分の立場分かってる?)


目を瞑ると、彼の冷ややかな視線と現実を突きつける言葉が蘇る。


(俺達はチーム内で恋愛ごっこなんかしてる余裕はないんだぜ)


全く以てその通りだ。

言い返せない私は、みっともなくもその場で涙してしまったのだった。


思い出しながらまた涙を一粒だけ零し、そしてそのまま裸の身体にシャワーを浴びて、新しい服を着て約束した場所へと出掛けた。








現れた私の姿を一目見てメローネは怪訝そうに眉を顰めた。


「何?その髪。ぐしゃぐしゃじゃないか。ロング、似合ってて好きだったのに」

好き、という言葉に反応して胸がちくりと痛む。


「まぁそれはそれで、無理矢理切られたみたいでそそるけどさ」

そう言って彼は私の髪を一房手に取り、手触りを確かめるように弄んでからそこに軽く口付けた。



「…変態」

「その変態とこれからセックスしようって君は変態じゃないのかい?」


くすくす笑って言うメローネに、私は「いいから早くして」と自分から唇を重ねた。

彼もそれに応じて、直ぐに舌が割り入ってくる。



「んぅ、んん…」


絡めた舌を解き、唇を離して見たメローネの顔は心底愉快そうな表情をしていた。


「…フフ、積極的でベネだ。好きだぜ名前のそういう所」


また「好き」だなんて言葉を使うメローネ。

きっとわざとなのだろう。
彼は分かっていてそんな言い方をして、私を苛めているのだ。



「…ありがと」

ちくちく痛む心とは裏腹に、私の身体は柔らかく溶け出していた。






(泣くなよ、俺だって名前のことは嫌いじゃない)


あの時、メローネは泣き出した私を慰め、抱き寄せて、そして抱いた。

彼のその行動が本当の優しさから出たものではないことは勿論私にも分かっていた。

それでもいいから彼と繋がっていたい。

そう思った私は馬鹿で弱くて、メローネは狡く、でも抱き合った身体は温かかった。


(ここは大人同士割り切った関係でいよう)

そう言った彼に、私は何も考えずただ頷いた。






「あッ、ああ……」

メローネの一突き一突きが身体の奥まで突き刺さる。
激しく揺さぶられ、息苦しさに顔を歪めて大きく喘ぐ。


「名前、その顔ベリッシモ可愛いよ、ッ…!」



心まで貫かれて窒息しそうな私の唇をメローネが吸う。


口の端から零れた唾液まで舐め取られ、私の顔はぐちゃぐちゃだ。



「ああ…、顔に、かけていいかい…?」

「…ん…ッ」



彼は引き抜いたそれを私の頬に擦りつけ、手で数回扱いてから放出した。

勢い良く飛んだ精液が髪にも付着し、べちゃ、と音を立ててシーツに垂れた。








「…ふう。ごめん、イヤだった?なんなら俺が洗ってやろうか」

「大丈夫、自分でするから」



満足気なメローネを置いて、私は髪と顔を洗いにバスルームへ向かう。

涙はもう出なかった。



この髪がまた元通り長くなる頃には、引き摺る想いまで一緒に断ち切ってしまえるよう、強くならなければならない。

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