親睦会/八雲さんへ



※未鷺と元秋の帰還後




どうしてこうなったんだっけ。


未鷺に代わって風紀委員長に就任した樋上佐助は豪華な面子の輪に加わって、ごくりと息を飲む。

生徒会も代替わりし、靖幸の弟が会長の座についたのは記憶に新しい。
けれども今ここ生徒会室には現生徒会メンバーは居らず、靖幸を筆頭とする先代メンバーが揃っていた。
それにプラスして未鷺と、彼が極秘で交際している鬼原元秋がいる。

彼らがひとつのテーブルを囲む様は威圧的でもある。

「生徒会と風紀委員は長くいがみあってきたけどー、代替わりした今こそ親睦を深めようねぇ」

双子の片割れの空が天使の笑顔で言う。

「俺たちは未成年だからジュースで乾杯しようぜ。ジュースで」

陸がテーブルに並ぶ瓶を顎で示す。
明らかに酒に見えるものもあったが、規則に厳しい元風紀委員長は気付いていないらしい。

「かんぱーい!!」

それぞれが持ったグラスを合わせるが、テンションが高いのは双子と或人だけである。

『ジュース』が次々に皆の腹に収められていったところで、空が提案する。

「せっかくだからゲームしようよぉ。じゃーん」

彼の手には何とも庶民的な割り箸が握られており、それには番号がふられている。
一本にのみ王冠のマークがついていた。

「王様ゲームをしまぁす!」
「男同士でやっても盛り上がらねえだろ」

呆れ声を出したのは元秋だった。
天使の顔を持ちながら心は正反対な空に楯突く彼の勇気に佐助は感服する。

「男しかいないんだから仕方ねェだろ。引けよ」

陸が空から受け取った割り箸を持って全員の前に差し出す。
靖幸までもが引いたことに驚きながら、佐助も勧められるままに一本手に取った。

「せーの、王様だーれだっ!」

掛け声をかけたのはやはり双子と或人だけだった。

自分の割り箸を見て、佐助は緊張しながらおずおずと挙手する。

「あ、お、俺です」
「命令は?」

アルコールで顔を赤くした或人が身を乗り出して尋ねる。

「えっと、三番と六番の人は語尾に『にゃん』をつけて下さい」

軽い気持ちで佐助が命令すると、近くから舌打ちが聞こえた。

「俺かよ……にゃん」

よりによって一番似合わない強面の男が不機嫌そうに喉を鳴らした。
グラスを傾けてとろんとした目をした未鷺が元秋を不審げに睨む。

「お前……どうした」
「どうしたって、王様ゲームのルールだろにゃん。お前の番号は?」
「六番だ」
「じゃあお前もつけなきゃいけねえにゃん」
「そうか……にゃん」

未鷺は神妙な顔をして渋々頷いた。
にゃんにゃんと真顔で会話する元秋と未鷺を、微笑ましいような羨ましいような気持ちで見ていると、佐助は悪寒を感じ振り向いた。

しかしテーブルの向かいにはいつも通り悠然とした靖幸がいるだけで、佐助は首を傾げた。

王様ゲームは盛り上がっているのかそうでないのか微妙なラインで続く。
腹筋やら一気飲みやらをさせられた慎一は標準装備の笑顔すら曇っているし、或人は酔って寝て転がっている。
一方で双子は楽しそうだった。

「僕が王様だぁ」

割り箸を掲げて空が笑う。

「二番と五番がポッキーゲーム!」

命令を聞いた二番の佐助はぴしりと固まった。

相手が会長や鬼原先輩だったらどうしよう、恐ろしすぎる。
菖蒲先輩とだなんてそんな上手い話ある訳が――

「五番は俺だ」

手を挙げたのは未鷺だった。
佐助は胸中で歓喜の雄叫びを上げる。

「先に逃げた方が負けなのか」

用意されたポッキーをくわえる前に未鷺が呟いた。
負けず嫌いの彼のことだから、自分からは逃げないだろう。

ポッキーの両端をそれぞれ佐助と未鷺がくわえた。
間近で見る未鷺の顔、特にポッキーを挟む唇に、佐助の胸が鳴る。
ぽきぽきと食べ進めると、鼻がつきそうな距離になる。

どさくさに紛れてキスくらいなら、と佐助の中の悪魔が囁き理性を侵食する。
悪魔に身を任せようとしたその時、背中が震えるほどの悪寒に教われた。

横目で見ると、左には零下の視線を寄越す靖幸、右には獲物の首を掻き切ろうとする猛禽類の目をした元秋がいる。

殺される。

佐助の本能が警告する。

キスしたら殺されるぞ、と。

しかし目の前には憧れて止まない未鷺の唇がある。

どうする……。

どうする……!





「うわー!ごめんなさい!」

佐助は肩を大きく揺らして顔を上げた。

「就任直後に居眠りするな」

目の前には未鷺がいたが、ここは生徒会室ではなく、ポッキーもなかった。

風紀委員室で仕事中に眠りに落ちていたことに気付き、あれは夢だったのかと安堵する。
安堵したところで、未鷺が口を開いた。

「先代の生徒会から親睦会に誘われたのだがお前は来るか」

佐助は背筋が冷えるのを感じ、慌てて頭を振った。




end





八雲さんのリクで『メインメンバーで王様ゲーム』でした!
メインメンバーあんまり出てないような気がしますが、わたしは楽しく書きました!
リクありがとうございました!


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