Passion
「……傷口が、開くから……っ」
その言葉がまるで聞こえていないかの様に、ニールは私の首筋に荒々しく唇を押し付ける。
負傷した右目を眼帯で覆い、その身体には傷口を止血する為に包帯が巻きつけてあった。
再生治療を拒んだ彼は、急くように私を壁に押し付けて性急な愛撫を始めると、片脚だけを持ち上げて、そのまま押し入ってきた。
立ったまま与えられる突然の圧迫感と、まだ十分ではない場所に彼を受け入れた鋭い痛み。
それでも私は声を上げないように、必死に唇を噛み締めて堪え続ける。
「……もう駄目だって、一瞬本気で思った」
ニールが腰を突き上げながら洩らした声は、少しの余裕もないような、初めて聞く声だった。
「そうしたら目の前に、ハロの顔が見えたんだ……」
心配しているクルーの前で『治療はなしだ』と笑ってみせた彼。
展望室でひとり悔いていたティエリアを、責めるどころか逆に気遣い、励ました彼。
今まで弱音を吐いたニールを、私は一度も見たことがなかった。
それでも……きっとニールも、私と同じだったのだ。
怖かった。
ヴァーチェを庇い飛び込んだデュナメスの機体に、GN-Xのビームサーベルが突き刺さった瞬間。
コックピットの至近部分を貫通し、機体の背面から突き出した赤い光の切っ先。
まるで自分の身体を貫かれたかのような衝撃と、もう二度とニールに会えないのではないかという、とてつもない恐怖。
手足が震え、呼吸することさえ出来なかった。
酷く不安定な体勢で彼を受け入れている。
片脚しか床に着いていないし、身長差でつま先立ちの状態。
いつもより奥深い突き上げに、私は目の前の身体に強くしがみつく。
「……ニール、怖かったよ、凄く……」
熱い彼の身体が、今、ニールに抱かれているのだという事を実感させてくれて、私は我慢しきれずに泣いた。
首に腕を絡めるようにきつく抱き締めると一層奥深くまで突き入れられ、焼けるような痛みと強烈な疼きが同時に押し寄せる。
この感覚こそが、生きている証なのだ。
私だけに与えられる、ニールからの『生きている』証。
「俺は此処にいるから……、ハロと、最期まで」
容赦なくかき回され、激しく出し入れされる。
ニールに与えられる痛みと悦びに胸が震え、涙が止まらない。
(一緒だから。私とニールは、最期のときまで)
そして息も出来ないほどの激しい誓いの口付けを交わしながら、私達はほんの僅かな時間に許された激情に、身を任せていく。