Immorality / prologue

「……悪い」

上を向いたまま彼女に謝る。

「疲れてるのよ。大変なんでしょ? 先生って」

身体の向きを変えた彼女は、細い指先を俺の髪に巻きつけるようにして弄ぶ。
綺麗に飾られた長い爪。 
濃い色のネイルは俺の趣味じゃない。
その指で髪を触れられても、何も感じなかった。
ベッドから降りて下着を着け始めた様子をぼんやりと眺める。
服まで身に付けているその姿に声を掛けた。

「帰るのか?」
「ニールはそのまま寝てて。送らなくていいから」

落ちかけた化粧を直し、美しい顔で微笑みを作る彼女。
これから何処かへ出掛けるつもりなのだろう。

「……気をつけて帰れよ」 

そして俺もベッドに寝転んだまま笑顔を作り、彼女に向ける。
部屋を出て行く後姿を見ても、何も感じなかった。
そして俺は思い浮かべる。
あの指先と黒髪と、俺を見つめる黒い瞳を。




隣で眠るミハエルの顔はどこか子供みたいで、男の顔だったさっきまでとはまるで別人に見えた。
私の身体を抱き締めるようにまわされた腕が重くて、そっと持ち上げて体勢をずらす。
何度か身体を重ねれば、少しずつ痛みは無くなっていった。
だけど、こんな感じなんだろうか……セックスというものは。
皆が騒ぐほど気持ちの良いものじゃない。
それでも、素肌が触れ合う感触は心地いい。
こんな風に肌を合わせるのは、ミハエルだけでいい。
誰かに求められる嬉しさは、ミハエルが教えてくれたから。
だから彼だけでいい、私が求めるのは。
藍色の髪にそっと指を伸ばし、触れる。
少し硬い……あの時触れた髪よりも。
そして私は思い浮かべる。
あの柔らかだった茶色の髪と、私を見つめる碧い瞳を。





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