Untitled 3

……ニール。
好きとか愛してるとか、そんな言葉では足りないような気がしてただ名を呼んだ。
身体を繋いだすぐ後では余計に、有り触れたものにさえ聞こえてしまいそうだから。
胸の奥深くから湧き出てくるこの切ない想いは、どうすればあなたに伝わるのだろうか。
ニールは優しくて、いつでも笑っている。
時々、何を考えているのか分からないこともある。
確かめてみたくて我儘を言っても、真っ直ぐに向けられる瞳はいつだって無条件で私を許してくれる。
今もそうだった。
一方的に理不尽な言葉を並べて、わざと彼を困らせた。
嫌われてしまうことは本当に怖い……それでも私は、愛情を確かめずにはいられなくなる。
ふわふわと高揚感の治まらない身体。
腹を立てることもなく、いつものとおりニールが逞しい腕の中で、私をたっぷりと溺れさせてくれたせいだ。
鍛えてある腹筋、引き締まったウエスト、力強さを感じさせる肩から二の腕に続くライン。
その彼の身体にも、まだ薄っすらと汗が滲んでいる。
いまだ乱れたままの長い前髪が、綺麗な瞳に掛かっていた。
かき上げることもしないで、髪の隙間から透明な碧色の虹彩がまだ熱を持ちながら、それでも優しさを含んだ視線で、すぐ隣に横たわった私の顔をじっと見つめている。
こんな時はいつだって、ニールが愛しくて胸が痛い。
ずっと一緒にいたい……。
祈るように縋るように見つめる私の視線を、何も言わず瞬きさえしない優しい眼差しが受け止めてくれていた。
確証はないけれど、今、彼も同じように感じてくれていると思った。

「ハロ、こっち来い」

穏やかな声に呼ばれ、一層愛おしさが溢れる。
もしかしたらニールは私の考えていること全部、分かってくれているの?
肩を抱き寄せてきたニールが自分の額を私の額にこつりと押し当てるから、近づき過ぎて焦点の合わない視線にそっと瞼を閉じた。

「ハロ」

下りてきた唇が甘いキスを繰り返しながら、長い指で慈しむように髪を梳いてくる。

「……俺が好きか?」

重ねる合間、そう訊いてきた唇に、私は答える代わりに何度も何度も頷いてみせた。
髪を優しく梳いていた手が、再び私を悦ばせようとする触れ方に変わる。
大きな手のひらに頭を包み込まれ、髪をかき分けながら深く埋められていく指先が地肌を弄った。
唇が顎から喉、鎖骨へと少しずつ下に移動して、早すぎる彼のペースに一瞬感じた戸惑いも、甘く上擦った自分の声がすぐにかき消した。
ぬくもりを感じようとするかのように胸元に顔を擦り付けてくる彼の様子は、まるで大きな子供が甘えてくるみたいなしぐさで。
首筋に触れるブラウンの髪がくすぐったい。
滅多に見ることのないそんなニールの抱擁に、心の中が満たされていく。
それでもまだ最初の余韻が残っている身体は、胸の先に掛かる熱い吐息にさえ敏感に反応してしまう。
そのことを誤魔化すように身を捩ると、そこに口付けられ、思わず腰が跳ねた。
ニールは柔らかく舌先で舐めてから悪戯するみたいに色付いた場所を指で触れて、少しだけ意地悪な表情で私を見下ろした。

「なあ、ハロ」

上から碧色の双眸が、満足げに覗き込んでいる。

「何で声、出さねえの?」

わざと耳元で囁いた声に、自分の深い場所がまたとろりと蕩けていく感覚がした。
……早く、早く。
好きだと言って欲しい。
愛してると言って欲しい。
本当は。
自分では口にすることを躊躇ったくせに、その言葉を聞きたいのは、私自身。
いつだって強請ってばかりで、甘えてばかりで、心の底では酷く不安だった。
だから見つめるだけじゃなく、今すぐに聞かせて欲しい……ただ、ひとことでいいから。 
悪戯を続けるようなもどかしい指先の動きに、少しずつ気持ちが揺れ始める。
見上げた先にある整った顔が薄く滲んで、胸が苦しくなり呼吸さえしづらくなった。

「愛してる」

不意に、小さな声が囁いた。

「ハロ、愛してる」

今度は米神にキスをしてから、一度目よりも力強い声で。
激しく湧き上がる悦びに全身が震える。
身体だけじゃなく、心さえ震えて。
吸いこまれそうになる透明な瞳。
ただ見つめられているだけなのに、心の中まで、心臓まで、掴まれているような気がした。
ニールが私の中へと入ってくる。
私に痛みがないことを確認してから、そのまま奥深くまで入り込んで、身体を揺らし始めた。
汗と肌のにおい。
揺れるブラウンの毛先。
少し苦しそうな眼差し。
鎖骨に熱い吐息が掛かり、痛いほど首筋を吸われ、声を上げて半開きになった唇を濡れた舌先がなぞる。
そのしぐさ、表情、何もかも全てが愛おしい。
貫かれる度に快感が身体中を突き抜けて、繋がったところから全てが融けていってしまいそうだ。
何度も私を呼ぶ掠れた声から、愛情が伝わってくる。
キスをしながら、愛してるとニールの唇が動く。
ニール、大好き……。
重ね合った唇で、そう応えた。
胸を焦がすような、特別な言葉なんて知らない私が口にできる言葉は、やっぱりこの程度でしかないけれど。
触れたまま、唇が嬉しそうに微笑んで、絡めている指先に力がこもった。
お互いの鼓動と息遣いが重なり、二人がひとつになる幸せを噛みしめる。
愛する人に想いを伝えるのは、シンプルな言葉でいいのかも知れない。
飾りのない、心を込めた想いを、有り触れた言葉で。
ニールの重みを全身で受け止めて、私はそんなことを考えた。




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