This Night

動きに合わせて音を立てるベッドのスプリング。
少しだけ苦しそうな吐息で私を見下ろしていたニールと、視線がぶつかる。
抱かれている時に真上から向けられる視線は、恥ずかしくていつまでも慣れることはない。
彼も一度動くことを止めて、まるで照れ隠しのように小さく微笑んでから、掌がそっと髪を撫でていく。
急にそんな優しい表情を見せられると、胸がきゅっと締め付けられるように痛い。
それでも、瞳を細めながら私を見つめる視線には確かな欲情が浮かんでいて、髪を梳くように撫でていた指先が耳の裏を通り、うなじのラインを辿った。
首筋にキスをされて、心臓の鼓動がニールに聞こえてしまうほど大きく高鳴る。
その唇が私に触れていると思うだけで、甘く満たされた気持ちが身体の奥深くから溢れてくるのに、突然涙が零れそうになった。
そしてまた、さっきよりも控え目に、私の身体を揺らし始める。
伏せていた顔を上げ、また少し苦しそうな表情に戻ったニールの長く柔らかな前髪に、右手を伸ばしてかき上げた。
髪の中に指を埋めたままでいる私の右手に彼の左手が重なり、露になった瞳と言葉にはならない思いが伝わる視線でお互いを見つめ合う。
ゆっくりと、深く、私の中に沈んで行くニールを受け止めながら、このまま思い切り泣き出してしまいたかった。
身体の奥に感じるこの温もりが、愛し過ぎて切ないから。

「……ずっと、一緒に居たい」
「いるじゃねえか、ここに」

もう一度微笑んで、そう告げながら耳朶に触れてくる唇が熱い。
決して未来を口にする事はない、その唇。
それはまるで、自分には今しかないのだと言っているようで。 
逞しい両腕が私を強く抱き締めると、すぐに二人分の体重を掛けられたスプリングが、ぎしぎしと弾むように大きな音を立て始めた。
ハロ、ハロ……、と。
快楽にうかされた呼吸の合間に時折、名前を呼ぶ小さな声が混じる。
愛しい人がこんなにも傍にいるのに、溢れてくる涙は止まりようがなかった。
もしもこの先、彼の温もりを感じることができなくなる時が来るのだろうか。
この温もりが消えてしまったら、きっと私は狂ってしまう。
未来<さき>の見えない私達には、ひとつになれる今が、この瞬間が、何よりも尊くて。

「辛いか?」

流れてしまった涙を吸い取っていく唇に応えて、首を横に振る。  

「違うの。気持ちが……良いだけ……」

ニールは動きを止めて身体を離し、私を横向きにさせてから、すぐにうつ伏せへと体勢を変えさせた。
背後から腰を持ち上げられて、すぐにまた分け入ってきた身体は、休むことなく動き始める。
後ろから深く貫かれる感覚に思わずシーツを握ると、反らせた私の背中に押し当てられた唇が、肌をきつく吸い上げた。
その小さな痛みに短い声を上げた場所を、今度は濡れた舌先が優しく舐めて、慈しむようにそっとまた唇を重ねる。
背中に掛かる髪を肩に流しながら、忙しなく何度もあちこちにキスをされて、快楽だけじゃない甘い気持ちが心の奥から湧き上がった。
腰に添えられていた掌に力が入ると、それが合図だったのかさらに奥へと進んだ身体が深い場所を突いて、お互いを混ぜ合わせるように大きく動き出す。
もっと、もっと……ニールの感触を、全身に刻み込んで欲しい。
思いが伝わったように激しさの増した律動が、快楽と苦痛の狭間に私を連れて行く。 
荒く乱れた呼気とぽたりと滴るニールの汗が背中に落ちてくる。
後ろから私を覆うように抱き締めて、突き上げを繰り返し耳の後ろにキスをしながら、息の上がった声が切なげに囁いた。
愛してる、ずっと――
心だけは、ずっと――
その言葉を聞いた瞬間、心臓が締め付けられるほどに痛み、苦しいくらいに脈を打っていく。
はっきりと自覚してしまえば、涙は止め処なく溢れ、頬を伝っていった。
私は今、愛しい人と繋がり、その体温を感じている。
だから、このまま夜が明けなければいい。
世界中の動きが永遠に、止まってしまえばいい。
ひとつになって溶けてく二人の身体の熱さを、いつまでも感じていられるから。




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