Lost World

不意に、懐かしい匂いが鼻先を流れていく。
それが錯覚だと分かっていても、吸い込めるだけの酸素を無理やり肺に送り込んだ。
もう痛みの感覚さえ薄れていく身体が、それでも遠い記憶を懸命に辿ろうとしている。
微かに甘い香りのする、しっとりと柔らかだった肌の質感や髪の艶やかさ。
彼女の屈託のない笑顔が、この目には目映いほど輝いて見えた。
無意識に唇から、小さく息を吐き出すような声が漏れる。

「りんね……てんせい、か……」



『ねえ。輪廻転生って言葉、聞いたことある?』
『東洋思想か?』
『人はね、死んでしまっても魂はまたこの世に生まれてくることを、ずっと繰り返してるんだって』
『で? お前さんはそいつを信じてんのか』
『勿論! だって何度でもニールとめぐり会って、また愛し合えるなんて最高でしょ?』
『また愛し合うの前提かよ。けどなあ、もし生まれてきたとしても、俺達がそう上手いこと出会えるとは限らねえぞ?』
『それは……二人が強く想い合っていれば、きっと大丈夫だよ』
『……そんなもんかねえ』
『大丈夫、絶対!』



銃を模った指の先に、嘗て存在していた世界を見る。
半分赤く染まったバイザー越しに見えるあの青い星で、先に逝ってしまった愛しい者たちの。
両親……、妹……、それから……。
もしもまた、あの星に生まれてくることができたら。
全ての争いが終わった世界で、いつかめぐり会えるなら。
狙い定めていた指先を小さく跳ね上げると、耳を劈くほどの爆音と共に視界一面が真っ白に変わり、次の瞬間には永遠とも思えるような静寂と暗闇が訪れる。
意識が途切れてしまう寸前、俺はその名前を呼んだ。

「……ハロ」
『二人が強く想い合っていれば、きっと大丈夫だよ』
「……そんなもんかねえ」
『大丈夫、絶対!』
「ああ、そうだな」

お前さんのその言葉、信じるとしようか――。




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