Taboo (Neil ver)

浅い眠りから目覚めると、ついさっきニールと繋がった感覚が不意によみがえった。
自分では触れることの出来ないほど身体の奥に残る甘い気だるさが、最後に味わった感覚をしっかりと記憶している。
深くまで突き上げられた時の裂かれるようなあの痛みは、記憶に残っていた三年前の、あの日と同じものなのに。
まだ少年だった頃のニールは、私と然程変わらなかった身長に体格もどちらかといえば華奢で、線の細い男の子だった。
長身に変わっていた体躯は、昔の面影を少しも残してはいない。
体格だけではなかった。
身体中を隈なく触れていった大きな手のひら、肌に這わされた舌の感触、私を見下ろした時の熱い視線。

「……ハロ」

少し掠れた声に呼ばれると項に吐息が触れて、痛みを感じているはずの奥深いその場所が、切ない熱を持ち始める。
心も身体も、堕ちていく。



そっと後ろから髪を撫でてきた手のひらは、どこか遠慮がちだった。
いつの間にか眠りに落ちていた私は重い瞼を開き、なるべく声をひそめて話し掛ける。

「……私、どの位寝てた?」
「ほんの少しだよ」
「そう、良かった」
「ごめんな、ハロ。痛かったろ?」
「平気だよ? 少し痛かったけど、ニールと一つになれて凄く嬉しかったから」
「僕もハロと一つになれて、最高に嬉しい」

腕を伸ばし後ろから抱き締めてくるニールの温かさを感じ取れば、私の胸は押し潰されるように苦しくなる。
今夜、この施設を抜け出すと彼は言った。
この世の中を自分の力で生きていく為だと、彼は言った。
そして必ず迎えに来るから、それまではここで待っていて欲しいと、心配そうな不安そうな表情で告げられた言葉に、私は大きく頷いてみせた。
十五歳の私達はとても無力で、自分達を守る力さえ持っていなかったから。
今日私は、以前から里親になりたいと言っていた男に無理やりベッドまで連れて行かれ、押し倒された。

『これからする事を皆に黙っていれば、お前を引き取ってやるから』

そう言って薄笑いを浮かべながら耳元に息を吹きかけてきた男の太腿に、ニールはペーパーナイフを思い切り突き刺した。
一年前のあの日、一瞬で家族を奪われた私達には、もう未来に希望なんてなかったのかも知れない。
同じ施設に預けられた私とニールは、この一年間いつでも二人で寄り添うように過ごしてきた。
それなのにニールは明日、別の施設へ連れて行かれることになっている。
どうせ離れ離れになるのだから、私を守る術があるのなら、この先どんな事でもすると彼は言ってくれた。

「でも、しばらくはハロに会えなくなるから心配だよ」

私は泣きたくなる気持ちを振り払い、引き寄せられた腕の中で寝返りをうつように向きを変え、真っ直ぐにニールの顔を見つめた。

「大丈夫! 私も強くなってみせるから心配しないで」

急に動かした身体が酷く痛んだけれど、心配そうに覗き込んでくる碧色の瞳に笑った顔を見せる。

「大好きだよ。ハロ」

ニールは私の背中に腕をまわして、いつものように優しい笑顔を見せながらそっと唇を重ねた。

「愛してる。愛してるよ……ハロ」

何度も囁き続ける、ニールの声。



そっと後ろから髪を撫でてきた大きな手のひらは、あの日と同じようにどこか遠慮がちだった。
いつの間にか眠りに落ちていた私は重い瞼を開き、やはりあの日と同じようになるべく声をひそめて話し掛ける。
今はもう、そうする必要はないのだけれど、小さな、ニールだけに聞こえるほどの声で。

「……私、どの位寝てた?」
「ほんの少しだ」
「そう、良かった」 
「ごめんな、ハロ。痛かったか?」
「大丈夫、痛かったけどもう一度ニールと一つになれて、凄く嬉しかった」
「俺もまたハロと一つになれて、最高に嬉しい」

背中から抱き締めてくるニールの温かさを感じ取れば、私の胸はより一層悦びに満たされた。
懐かしいはずの彼の匂いにも、久しぶりに触れ合った肌から伝わる体温にも、心臓の鼓動が速まり身体は熱を帯びる。
約束した通り私を迎えに来てくれたニールは、少年から青年にその姿を変えていた。
三年前とは比べ物にならないほど逞しくなった身体に、私は抱かれた。
広い肩幅に綺麗な筋肉の付いた厚みのある胸、まだ子供らしさの残っていた顔も、今では精悍さを備えた端整な顔つきに変わっている。
大人の男の、顔と身体。
少し前、私の身体に覆い被さっていたニールの上半身には、あの頃にはなかった傷跡が付いていた。
肌が引き攣れたような傷痕や、まるで刃物で切りつけられたような痕が何箇所か、白くて綺麗な素肌に付いている。
肩や腕の他に、背中に腕をまわした時にも、不自然に薄く盛り上がった皮膚の感触が、何度かこの指先に触れた。
会えなかった三年の間、ニールはどんな暮らしをしていたのだろう。
何から問えばいいのか、何を問えばいいのか。
彼がまとう空気に、以前とは違うどこか異質なものを感じる。
鍛え抜かれていることが一目で分かるほど逞しくなった身体も、自分とは比べ物にならない位にやたら大人びた表情も、鋭くなったその目つきにも。
それでも私を優しく見つめた時の綺麗な碧色の瞳だけは少しも変わらなくて、その視線からは溢れるような愛おしさが伝わってくる。
嬉しさと切なさで、胸が詰まるようだった。
こうしてまた二人が抱き合える時を、どれだけ心待ちにしていたか。

「……もう二度と、離れたくない」

ニールは逞しい腕で私の身体の向きを変えさせ、包み込むように胸の中へと抱き込んだ。

「離さねえよ、もう二度と」

強く抱き締められながら告げられた言葉に、苦しくて心臓が壊れそうになる。

「俺とハロは一緒に生まれて来たんだ。だから最後まで一緒だろ?」

それは焦がれるほど待ち望んだ、最高に幸せで、最高に不幸せな瞬間だった。 

「ニール――」

男らしい大きな肩に腕を回して顔を見上げれば、すぐに落ちてきた唇が開きかけた私の口を塞ぐ。
次の言葉を遮るために強く押し付けられた唇は、まるで知らしめるように首筋から胸元へと滑り落ちて、もう一度身体を繋げようとし始めた。
身体は覚えてしまった快楽を求めても、出口のない想いが容赦なく胸の中を焼くように痛めつけてくる。
じっと私を見つめたまま一定のリズムで揺れ動くニールの顔を、きっと同じ表情で見上げている自分。
私達は犯した禁忌に縛られ、共に生きていくのだ……勿論、最期まで。
髪の色も瞳の色も、顔さえ全く違う、私達兄妹。
たとえニールが二卵性双生児として生まれてきた私の兄だとしても、この気持ちは止められない。
誓い合うような深い口付けを何度も交わせば、お互いを想う狂おしいほどの強い愛情が重なった唇から流れ込んでくる。

愛してる――
――愛してる

何があろうと誰であろうと、私達の愛を引き裂くことは、絶対に出来やしない。




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