Earnest love (2)

首筋に埋められた男の唇が、肌の上をゆっくりとなぞっていく。
恐怖に怯えながら生まれて初めて味わうその感覚に、思わずぞくりと背筋が戦慄いた。

「……感じやすいな」

私の身体が震えたのが分かったのだろう、男はそう呟くと、今度は舌先で耳朶を舐め上げる。
再び味合わされた未知の感覚を何とかやり過ごそうと、私は唇を噛み締めた。

「俺にこうされるのが、そんなに嫌か?」

身体を強張らせながら耐える私を見て自分のことが気に入らないと思ったのか、どこか傷付いた様な表情で伺ってくる男の様子に気付くと、何故か胸に僅かな痛みを感じた。

「違います。あなたが嫌なんじゃなくて、私、初めてなのでどうしたらいいのか……」

すぐに口をつぐんだが、目の前の男が怖いはずなのにその瞳を見た途端、自分でも分からないうちに声を掛けていた。
すると少し驚いたように一瞬目を見開いた男の表情が、すぐに嬉しそうなものへと変わっていく。
優しささえ含む視線で私を見つめる瞳に一瞬懐かしさを感じたが、それが何故なのかは分からない。
男は、頭の上で束ねられている私の両手を解放して、お互いの鼻先が触れてしまうほど、その整った顔を近づけてきた。

「ニールだ。俺の名前」
「……ニール?」

小さく呼んだ次の瞬間に唇を塞がれ、驚きのあまりきつく目を閉じる。
柔らかい感触が啄ばむように何度も触れてきて、その合間に私の名前を呟くその声を聞くと、再びぞくりと身体が震えた。
動きの止まったニールの唇にそっと瞼を開くと、すぐ真上に見えた瞳に宿る欲情を感じ、胸の鼓動が一際大きく高鳴る。

「お前の初めてを……今から俺が奪うから」

私の着物の合わせ目に両手を掛けたニールが強引な仕草で左右に広げると、肌蹴た胸元に落とされた舌先が滑り肌を濡らしていく。
その度に漏れてしまうあられもない私の声を楽しむかのように、ゆっくりと揺れながら彼の舌先が移動する。
休むことなく顔を伏せたまま自分の上着を脱ぎ捨てたあと、私の帯を弛めてさらに大きく胸元を開かせた。

「綺麗な肌だ」

淫らに晒された胸の膨らみに右手を伸ばしたニールの口角が満足げに上がり、その感触を確かめるような手付きで触れられたあと、今度は唇が敏感な場所を優しく含む。
今まで感じたこともないその感覚に、無意識のうちに彼の肩を押し上げ、顔を引き離そうとしたがそれは全く叶わなくて、私の身体は慣れていない快楽に容易く堕とされてしまう。
直接与えられる刺激とそこから聞こえてくる濡れた音、耳を塞ぎたくなるような自分自身の淫らな喘ぎ声。
あまりの羞恥に堪えきれずに泣き出しそうになるが、その反面、快楽を感じ過ぎて眩暈さえ起こしそうだった。
ようやく顔を上げたニールが自分のシャツのボタンを外しながら、少しだけ不機嫌そうに眉を寄せて私を見下ろし、呟いた。

「この位でこんなになって……ほかの男にどう抱かれるつもりだった? こんなにも感じやすい身体で」

初めて肌を重ねる行為なのに、こんなにも乱れてしまう自分が恥かしくて、もうどうしようもない。
思わず涙が滲んでしまい、それに気付いたニールがシャツを脱ぎ捨てた逞しい身体を晒して、上から私の両肩を押さえ込んだ。
服を着ていた時よりも広く感じる肩幅。
筋肉に覆われた形の良い胸や腹部、そして太い二の腕。 
組み敷かれているその美しい身体に先程まで感じていた恐怖心はなくなり、それどころか今の私は、ニールに対して経験したこともない胸の高鳴りを感じていた。

「これから先、ハロを俺以外の男に抱かせるつもりはない」

強い眼差しで上から覗き込み、独り言のように呟く声が聞こえる。
胸元に添えられた大きな手のひらがゆっくりとした動きで刺激を与えてくる度、びくびくと身体が跳ね上がっていく。
ニールの指が、唇が、私の身体に快楽を植えつけて、絶え間なく肌の上を往復する。
全身に甘い痺れが走り、それに応えるかのように零れ落ちる喘ぎ声は、自分でも抑えられないほど淫らなものになっていった。
そして、ニールの手のひらが私の膝に触れる。
開かれていく両膝を閉じようと咄嗟に力を込めても、すぐにそれを拒むように大きな身体が脚の間に割り込んできた。
そのあまりの体勢の恥ずかしさに、どうにかなってしまいそうだ。

「今日からハロは俺の妻になる。お前の身体に俺を刻み込むから、覚悟するんだ」

乱れた前髪越しから見下してくる瞳の奥へと、吸い込まれてしまいそうになる。
言われたその言葉の意味を、私は理解できない。

(妻? 水揚げした相手のことを、此処ではそう呼ぶの?)

全く余裕のない私の様子を眺めたニールの表情が一瞬だけ満足したように柔らかくなり、優しく口付けられる。
次の瞬間、いきなり貫かれた強烈な痛みに思い切り背中を仰け反らせ悲鳴を上げるが、その声は塞がれたのままニールの唇で封じ込められてしまう。
痛みをやり過ごす間も与えられず、更に奥まで突き上げられ、増した痛みに頭の中が真っ白になった。
耐え切れずに唇を噛み締めようとすれば、それよりも早く彼の舌がするりと入り込んで私の舌を捕らえ、噛み締めることを許してはもらえない。
そのまま淫靡な水音が聞こえるほどじっくりと絡み付いてきて、私はすがるような気持ちで自らニールの舌先を求めた。
すると二人の身体を隙間なく重ね合わせ、彼の両腕が私の身体を強く抱き締める。
その後、容赦のない動きで何度も突き上げられ、気が遠くなりそうな痛みを与えられながらも、次第に身体の奥底に湧いてくるほんの僅かな甘い疼きを感じ始めている自分に気付いた。

「漸くだ……ハロ、やっとお前を手に入れた」

苦しげな声が聞こえると先程の言葉通り、私の身体に刻み込むニールの動きがより一層激しさを増していく。
耐え難い強い痛みと僅かな疼きを感じながら、私は無我夢中でニールの背中に腕をまわし、しがみ付くしかなかった。
汗ばんでいるニールの背中が彼の懸命な想いのように感じられ、まわした私の腕に応えるように、彼の腕もまた私の身体を強く包み込むように抱き止めてくる。
身体の中心に感じる圧迫感で上手く呼吸も出来ず、私はその広い背中に爪を立てていた。
とうに消え去った恐怖、そして、繋がっている痛みさえも熱い刺激に変わり、激しく揺らされる身体の動きに合わせ、必死に身をしならせる。
耳元でニールの声が途切れ途切れに聞こえたあと一際大きく突き上げられ、悲鳴とも嬌声とも区別がつかない声をあげれば、今までに味わったこともない感覚が身体の中を駆け抜けていき、瞬間、目の前が白く霞んだ。
 



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