Reset (2)

薄い肩口に歯を立てて震える身体を荒々しい手つきでまさぐれば、ハロは唇を噛み締めながら声を押し殺し、指先が俺の着ているシャツをきつく握リ締めた。
この艶かしい仕草も表情も全てが嘘、あるいは過剰な演技だったのか。
それでも傷付きそうなその唇を見れば思いとは裏腹に愛しさが溢れ、そこを舌でなぞると薄く開いたその口元は、どれだけ俺の欲情を煽っているのか知る由もない。
手早くグローブを引き抜いて、僅かな抵抗を捻じ伏せるように閉じられた太腿を大きく割り開く。
晒した掌をゆっくりと内側に這わせながら、付け根の奥へと進ませた指を下着に潜り込ませた。
確かめるように中指をそっと中心に差し入れるとハロの腰が跳ね上がり、そのとろりとした蜜の感触が更なる愛しさを運んでくる。
眉間に力を入れ、声にならない吐息を漏らしたその表情は、快感がもたらす女の美しさ。
背中を仰け反らせて小さく腰を揺らすその仕草が、より深い快楽を与えてやりたいと俺の気持ちを逸らせた。

「演技でもこんな反応されたら、男はつい騙されちまうよな」

怒りからなのか、悔しさからなのか、ハロは顔を歪ませる。

「データのバックアップはもう外部に送ったのか? こっちの調べじゃ今のところまだその可能性は低い」

押し黙ったまま、黒い瞳はただ真っ直ぐに俺を見上げていた。
どっちにしろ、ハロにはもう戻れる場所はない。
残っているのは始末されるという最後だけだった。
彼女を送り込んだできた組織にか、それとも俺に、か――。

「お喋りしてないで早くやれば? 最後のセックスなんだから」

深い闇のような強い瞳は、無理して冷ややかな視線を送っているようにも見える。
力でハロを征服できれば、俺はどんな酷いことでもするだろう。
いっそ、嘘でも泣きながら助けを請うような女だったら。
ほんの少し前には優しく埋め込んだ指先を乱暴な仕草で引き抜いて、白い両脚の間に身体を割り込ませる。
既に猛っている自分の切っ先をハロの潤みに押し当てながらゆっくりと沈めていき、最深部まで入れ込むと呼吸と同じタイミングで腰を揺すり上げた。
堪らない快感がじわじわと全身に広がっていき、少しずつ揺らすスピードを上げながら俺の下で妖しく身悶える白い肌の上に自分の身体を重ねる。
首筋や胸元に強く吸い付いてやると掠れた吐息が聞こえ、下腹部にはうねるように奥へと引き込まれる感覚が走った。
見下ろした先には欲情に瞳を潤ませたハロがいて、その瞳を見下ろした俺も更に欲情し、堪らなくなって今以上に激しく腰を揺さぶる。
腰を動かすたびに聞こえる濡れた音、大きく突き上げる度に漏らすハロの嬌声は、俺達が繋がり合っている証拠だ。
泣き声にも似た喘ぎ声を上げながら淫らに揺れ動くこの女を、俺の檻の中に一生閉じ込める事ができるなら。
自分の中の血が今までにないほどにざわめいていくのを感じる。
俺はまた新しい罪を重ねるのか?
この手で多くの命を奪い、その上、愛する女の命までも奪うのか? 
お互いを求め合うように深く唇を重ね、舌を絡ませがら、俺は最奥まで貫くように腰を叩きつける。

(リセット……)

彼女を、自分を、そして、この世界さえも。
不意に浮かんだあまりにも非現実的なその言葉を、それでも声には出さず、もう一度願うような気持ちで呟いた。

(全て……リセット出来たら)

一際大きな声を上げたハロを抱き締めながら腕の力を弛めることなく最高の快楽に身を委ね、自分の熱をその身体に放った後も繋がったままで、それでもいつまでも抱き締め続ける俺を許すように、彼女は何も喋ろうとはしなかった。
これほどまで他人に愛情を持ったことなど今までになかったと、腕の中の自分とは違う女特有の甘い匂い、柔らかな肌の感触を確かめる。
感じ取れる全てが愛しくて、俺はいつの間にこんなにもハロを愛してしまったのかと自問しながら首筋に顔を埋めると、今まで身じろぎひとつしなかった身体がもぞもぞと動き、「苦しい」と一言だけ呟いた。
どうやら自分で思っていた以上に、強い力で彼女を抱き締めていたらしい。
名残惜しみながら腕の力を弛め、温かな場所に収まっていた自分を引き抜いて身体を離した瞬間、いやに冷やりとした空気が二人の隙間を流れていく。
頭の中のどこかで何か違和感を感じ、弾かれたように身体を引き離すと、ハロは右手に握った銃を自分の米神に押し当てながらじっと俺を見上げていた。
心臓がどくん、と、一度大きく鳴る音が耳の奥から聞こえる。

(止めろッ……!)

俺の左手がハロの右腕を掴む直前に細い指先がトリガーを引き終え、刹那、見つめ合っていた瞳が幸せを感じたかのように細められた。
部屋の中に乾いた音が響くと目の前に赤い色が広がる。
銃を握っていた右手が力を失い、俺の手のひらからするりと抜け落ちて、床にごとりと鈍い音を立てた。

 



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