Deeply

兄さんが怒っている。
ハロが俺達以外の男と二人きりで飯食って、その上酒まで飲んだ。
そりゃあ許せる訳がない。

「だから、分かってるのか?」

その表情はいつも通り柔らかいのに、目が笑っていない。
女らしい細い顎をその指で捕らえ、まるで碧色のガラス玉のような瞳でじっとハロの顔を覗き込んでいる、自分と全く同じ顔をした兄。

「だって、上司だから断れなくて……っ」
「仕事なんて止めちまえって」

俺はハロの後ろから首筋に掛かる髪を指先ではらい、その滑らかな白い肌に唇を押し当てた。
俺達以外の男が、堪らなく愛おしいこのハロの匂いを感じたかも知れないと考えるだけで、胸の中に黒いものが込み上げてくる。

「上司だか何だか知らねえけど、向こうはお前さんにこういうことしたかったんじゃねえのか?」

ハロの顎を強引に引き寄せ唇を重ねた兄さんが、角度をつけてまるで口腔内を味わうようなキスをする。
深く重なった二人の唇から、何か言いたげなハロのくぐもった声が聞こえると、兄さんは唇をずらしてもっと深く繋がろうとする。
聞こえる淫靡な水音は、舌を激しく動かして、わざと立てているのだろう。
苦しそうに咽喉を鳴らすハロに欲望が高まり、俺はその細い首筋を唇でなぞりながら腕を前に回し、手のひらを胸元に滑り込ませ、ゆっくりと撫で上げた。



ライルが怒っている。
もしかしたら俺達以外の男の指が、ハロの何所かに触れたかもしれない。
そんなことは絶対に許せる訳がない。

ハロに聞かせるように厭らしく音立てて、唾液を混ぜ合わせるように舌を動かす。
喉を大きく仰け反らせながら顔を上げ、苦しそうに眉根を寄せて、それでも俺を受け入れるように伸ばした舌先を従順に預けてくる。
後ろから抱き締めているライルの腕の中に閉じ込められたハロの身体が、突然大きく跳ね上がった。
さっきから声にならない吐息を俺の口の中に零してくるから、きっと相当意地の悪い愛撫をされているはずだ。

「本当に分かってるのかよ?」

余裕のない、いらついた声で聞いたライルの右手が忙しなく動いている。
俺は痛みを与えるほど強く舌を吸い上げてから、唇を解放した。
目尻に涙を溜めたハロの顔は酷く淫猥で、薄く開いた唇から漏れている吐息は熱く……そして甘い。

「分かってる、から……っ」

乱れた呼気で懇願するように見上げられると腹の奥がじんと疼いて、ハロの全てを支配したいという欲望が堪えきれないほど溢れてくる。
俺達以外の男を受け入れた事がない、純粋な黒い瞳。
それでも俺は、わざと素っ気無い、冷たい笑みを向けた。



兄さんが本気で怒っている。
俺達はこんなにもハロを愛してるんだから仕方がない。

ブラウスのボタンに指を掛けた兄さんの邪魔にならないよう、胸元から手のひらを抜いてハロの両腕を軽く拘束する。
羞恥心が人一倍強いくせに抵抗する仕草を見せないその態度が、こいつなりの俺達への愛の証なのだろう。
ボタンを外し終えた大きな手のひらが露になった白い胸元をゆっくりと撫で回すと、俺の下腹部に重なる細い腰が、まるでねだるように小さく揺れ始めた。

「……お前さんは誰のものだ?」

俺のすぐ目の前で優しそうに微笑みながら、ハロを見下ろしている自分と同じ顔をした兄が、その表情とは逆の強い口調で問いただす。
小さかった吐息はいつの間にか激しく乱れ、這わされた手のひらの動きに合わせ上がる喘ぎ声は次第に大きくなり、音のない部屋の中には淫らな息遣いだけが聞こえている。
俺達以外、この肌に指一本でも触れた男が存在するかも知れないと思うだけで、嫉妬で気が狂いそうだ。
もどかしそうに揺れているハロの身体を緩く拘束しながら、そんな状況を作ってしまう無防備過ぎるハロに、俺は追い討ちをかける。

「言えって。それとも、もっと酷くされたいか?」



ライルが本気で怒っている。
これだけ愛してる俺達をハロは嫉妬で狂わせるんだから仕方がない。

ハロの耳元で囁いたライルの顔はまさに嫉妬に心を歪ませた男の顔で、今の俺もまったく同じ表情をしているに違いない。
小さな耳朶を厭らしく舐め上げている弟の赤い舌先が俺の視覚に刺激を与え、甘い声を上げながら身体を震わせているハロに、強烈な征服欲が湧いてくる。
押し上げた膨らみはいつものようにしっとりと手のひらに馴染み、形を変えさせた指先に柔らかな感触が伝わると、欲望がさらに膨らんでいく。
指を強く動かすたび反応する可愛らしくも淫らな嬌声と、瞼を薄く閉じて唇を噛んだその仕草が余計に興奮を煽るのだという事を、ハロはまるで理解していない。

「……ハロ」

質問の答えを促すライルの低い声に噛み締める事を止めた赤い唇から、俺達二人を悦ばせる甘美な台詞が零れ落ちた。



「二人のものだからっ、私の全部は、ニールとライルの……っ!」

それは、俺達の貪欲な嫉妬心が満たされる、至福の瞬間。
同時に満たされた征服欲が下肢に流れて行き、膨らみきった欲望が愛する女の身体を欲しがる。
拘束の解かれた細い両腕を自ら伸ばし、ハロが俺達を求めた。 
その腕をすくい取り、狂おしいほどの快楽を与えるのは、永遠に俺達二人だけでいい。
 



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