Triangular love

銜えた煙草に火を点けながら深くそれを吸い込んで、肺に煙を送り込む。
半日ぶりの苦味を味わうように、ゆっくりと細く、煙を吐き出した。
するとまだ頭と身体に残っていた興奮が、ほんの少しずつ治まっていくのを感じる。
ハロと会う日は本数を減らすよう、兄さんに言われていた。
キスでニコチンやらタールやらが少しでもハロの身体に入るのが心配らしい。
恋人想いの兄の意見に俺は素直に従っているが、きっと他にも理由があるのだ。
前に『ライルとした後のハロにキスすると、煙草の味がするんだぜ』と嫌味を言われた事がある。
兄さんとハロには悪いが、煙草は止められそうにないから我慢して欲しい。
俺に身体を寄せて丸くなっているハロの肩が僅かに動いたが、目を覚ます様子はない。
穏やかな顔をして眠るハロの顔と、さっきまでの辛そうなくせにまるでこっちを煽ってくるような悩ましい顔のハロとでは、まるで別人のようだ。
もうすぐニールも帰って来るんじゃない?と言うハロの言葉に、分かりつつも兄の帰宅を待ち切れず押し倒してしまった俺は、我慢弱い男なのだろう。
そもそもハロに対する我慢など、俺達兄弟は持ち合わせていないのではなかろうか。
ましてや久し振りに会う最愛の人に、どうして我慢などする必要がある?
そんな事を考えながら、頬に掛かった髪をそっと掃ってやる。
いく瞬間には何度も『ニール……ライル……』と、俺達の名前を呼んでいたことを思い出し、薄く開かれた小さな唇にそっと指で触れると、また腹の下が疼き始めた。

(煙草を味わうのはもう一回してからにするか?)

もうすぐ帰るであろう兄に気遣い、抱いたのは一度だけ。
これから二人を相手にするのだから、今からハロの体力を失くしてしまっては、帰ってきた兄さんに小言を言われるのは目に見えていた。

(……もう一回くらい)

俺は身体を起こして、まだろくに吸ってもいない煙草を惜しげもなく灰皿に押し付けた。
すると玄関でかちゃりと鍵を開ける音。
程なくして部屋のドアが開き、自分とまったく同じ顔をした兄が、俺達のいるベッドに目を向けた。

「よう、お帰り」
「ああ。少し遅くなっちまった」

真直ぐこっちへと近付いて、裸のまま眠っているハロを覗き込み、少し残念そうな顔をするから思わず笑ってしまった。

「……何だよ?」

怪訝そうに眉を寄せた兄に俺は答える。

「グッドタイミングだな、兄さん。待ちきれなくて今から二回目始めようかと思ってたところだ」

余りにもタイミングの良い帰宅に、笑いながら喋る俺をニールが軽く睨む。

「お前……今、煙草吸ったろ」

すぐ傍に置かれた灰皿に、ちらりと視線を向けられる。

「怒んなよ、朝から一本だけだ。それとな、ハロはいく時にちゃんと兄さんの名前、呼んでたぜ?」

そう言ってやると途端にいつもの優しい兄の表情に戻りベッドに腰掛けて、眠っているハロの首筋に顔を埋めながら小さく「帰ったぜ」と告げる。
まったくハロの事となると……と、少し呆れたが、すぐに自分もそうだよなと、自嘲する。

「……ん。ニール、お帰りなさい。会いたかった」

まだ眠そうな顔をしながらも愛しそうに微笑むハロは、俺達二人だけの宝物だった。
先に会った俺にも今と同じ言葉と笑顔をくれた彼女に一ヶ月ぶりに会ったのだから、我慢など出来る訳がない。
恐らく、双子の兄も自分と同じ行動を取るはずだ。

「俺も、会いたかった」

すぐに唇を重ねて、我慢することなく性急にハロを求めだした様子を隣で眺め、思った。

(まるでさっきの俺と一緒だな……)

流石双子、と変な所で感心してしまうが、きっと俺達だからこそ同じようにハロを愛して、同じようにハロに愛されるのだろう。
一ヶ月ぶりの、いつもより少しだけ荒い兄さんの愛撫に身を委ねているハロの切なげな表情を見ると、それだけで堪らなくなってくる。
それをぐっと我慢して、一足先に自分が味わった同じ快楽を、二人だけで浸らせてやることにする。
邪魔はしないよう、シーツに広がった髪に優しく指を通すと、それに気付いたハロの艶っぽい視線につい腕を伸ばしたくなるが、それをこらえながら囁いてやった。

「ハロ、すげえ綺麗だ」

すると、揺らされる快感に堪えながら俺に向かって腕を伸ばしてくるから、その腕を取り強く手を握ってやる。
少し辛そうにこっちを見つめて何度か頷くと、こらえ切れなくなったのだろう、目をぎゅっと瞑って可愛い嬌声を上げながら、俺達の名前を呼び続けた。
それを聞いた兄さんの動きが激しくなり、何度か腰を強く押し付けながら掠れた声でハロの名前を呼ぶと、小さく震えた後に腰の動きを止めた。
そのままハロの上に覆いかぶさるように身体を重ねたが、優しい兄は体重をかけないようにちゃんと腕に力を入れている。
激しい呼吸を繰り返しながらぐったりとした二人を目の前で見ていると、何故か微笑ましく、そして嬉しくもなる。

「ライル、お前……何笑ってんだ?」

無意識に顔が緩んでいたのか、乱れた呼吸のまま訝しげにこっちを見ている兄に、俺は素直に答えた。

「ん? 二人共とも愛してるぜ」

突然、弟から愛の告白をされた兄さんは照れているのか、顔を逸らして「ばかやろ」と小さな声を出した。
すると大きな身体の下で息を乱したままのハロが、途切れ途切れに返事を返してくれる。

「私も愛してる……ニールとライル、二人を愛してる」

俺は繋いだままの細い指を、包むように優しく握り締めた。

「……俺も」

ハロの肩の上に顔を埋めたまま、呟くように聞こえた兄の声に、俺は笑いながら「良く出来ました」と言うと、そのまま顔を上げずに「兄ちゃんをからかうんじゃねえよ」とたしなめられる。

「はいはい」

俺は笑いをこらえつつも、愛する二人から返された返事に、言葉に出来ないほどの幸福感を身体中で感じていた。



何かと兄ちゃんぶりたいニールさんと、そんな兄を可愛く思ってるライルさん。そんな感じで笑







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