Happy bride

『ハロは大きくなったら何になりたい?』
『可愛い花嫁さんになりたい!』
『じゃあ、誰と結婚するの?』
『ニールとライル』
『結婚は一人としかできないんだよ』
『やだ! 二人とする!』
『だから無理だって』
『大丈夫だよ、ライル。僕達は双子だから、きっと何とかなるよ』
『そっか。同じ顔してるから何とかなるかもね』
『じゃあ私は二人と結婚できるの?』
『大丈夫だよ! 大人になったら三人で結婚式しよう!』
『する! 絶対!』
『約束だよ? 僕達二人の花嫁さんは、ハロだけだからね』



うっすらと目を開けると見慣れない天井に、一瞬思考が停止する。

(……そうだ、ここはホテルだっけ)

まだぼんやりとする頭で思い出して、ほっと安心した。

(何て、懐かしい夢……)

私は余りの懐かしさに、自然と顔が綻んでいることに気付く。
遠い昔にした、三人だけの秘密の約束。
あれは幾つの頃の思い出だろう。
あのあと、右の頬にライルが、左の頬にニールが、それぞれ誓いのキスをしてくれたっけ。

(幼いながらも凄く嬉しかったな……)

こんな昔の夢を見たのは、私が昨日、結婚式を挙げたせいなのだろう。
小さな教会で誰を呼ぶわけでもなく、自分達だけで式を挙げた。
神父様は突然だったのにも関わらず快く承諾して下さり、厳かに結婚式を挙げることができた。
その後、教会に近いこのホテルで新婚初夜を過ごし、こうして今、目を覚ました。

(身体、凄くだるいかも……)

新婚初夜と言うのは名ばかりで、昔から随分沢山の愛情を受け止めてきたが、昨夜は本当に大変だった。
何度求められても終わらない快感に、どうにかなってしまうと本気で思ったほど。
眠りについた記憶がないということは、どうやら最後は気を失ったまま眠ってしまったらしい。
思い出すと顔が熱くなる……いくら回数を重ねても、慣れることなんてとても出来やしない。
そして私は思い出したように、左手を天井にかざす。
薬指には、綺麗に光る二つの指輪。
一つは金色の、もう一つは銀色の、シンプルなデザインの二つの指輪。
カーテンの隙間から差し込んでくる光の中で輝きを放つそれぞれの指輪は少しのくもりもなく、それはまるで私達の気持ちを映しているかのようだった。
不意に腕が伸びてきて、目の前にかざしていた手を優しく握られる。
その大きな手の薬指には、私の指にあるものと同じ銀色の指輪がはめてある。

「おはよう。花嫁さん」

私はその声が聞こえた左側に首を傾けながら、優しく握られた手に自分の指を絡めた。

「おはよう……ニール」

隣には嬉しそうに微笑んでいるニールがいて、柔らかい唇で頬や瞼に何度もキスを落としながら、愛しげな瞳で私を見つめていた。

「新婚初夜は少し激しすぎたか?」

今度は軽く唇にキスをされると、言われた言葉に頬が赤くなったのが自分でもよく分かる。
私はそれを隠すように、笑顔のニールを軽く睨んだ。
すると右耳の後ろを吐息がかすめ、突然耳朶を甘噛みされた感触に、私の身体がぞくりと震える。

「まだいけるだろ? 俺達の花嫁さんなら」

肩をすくめながら今度は右側に首を傾けて、すぐそこで悪戯っ子のように笑っているライルにも、わざと冷たい視線を送った。

「おはよう、ライル」

そう言いながら右手を彼の顔にそっと持っていき、その頬を抓ってしまおうと考えて指を伸ばした。
けれど頬に触れる寸前、私の指先はライルの左手に捕まえられてしまう。
彼の長い薬指には金色の指輪が光っている。
勿論、私の指にはめてある金色と同じものだ。

「これで本当にハロは、俺達二人だけのものになったんだな」

ニールと同じように、愛しげな表情で自分を見つめるライルの視線に胸が切なくなり、目の前の唇にそっと自分の唇を重ねた。

「流石に結婚許可証は貰えなかったけどな。でも話の解る神父さんで良かったぜ」

そう言いながら、ニールが優しく私の髪を撫でる。

「……まさか神父が付き合ってくれるとは思わなかったよな」

思い出したように笑みを浮かべるライルに、そうだね、と笑顔で相づちをうつ。
祭壇の前に立つ私達三人を見た神父様は一瞬困惑したようだったが、彼等の顔を見比べたあとに優しく微笑んで、何も言わずに誓いの言葉を述べてくれた。

「でも、本当に二人と結婚できるなんて夢みたい」

ついさっき見た幼い約束の夢を思い出しながら、私は上を向いて二人に指輪を見せるように、再び左手を天井にかざしてみる。

「約束したろ? あの日」

ニールの言葉に驚いた私は、大きな声で聞き返した。

「覚えてるの!?」
「勿論」
「同じ顔だから何とかなるっていうガキの発想が、現実になった訳だ」
「ライルも覚えてるの!?」
「当たり前」

あんなに幼かった日の約束をちゃんと覚えていてくれて、大人になった今、二人は本当に約束を叶えてくれた。
自然に涙が溢れてきて、頬に零れ落ちた涙を二人が同時に優しい仕草ですくい取ってくれる。

「泣くなって」

ライルが呆れたように小さく笑う。

「俺達には、昔からお前さん一人だけだって、分かってるだろ?」

優しく諭すようなニールの声。

「この先も、ずっとだ」

私も、ずっとずっと、二人だけ。
ニールとライル、二人だけ。
そしてあの日と同じように、右の頬にライルから、左の頬にはニールから、そっとキスが送られてきた。

 
『約束だよ? 僕達二人の花嫁さんは、ハロだけだからね』  


  



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