黄瀬涼太

金色にカラーリングした髪がさらり、目の前で揺れると、同じタイミングで引き締まった腰がゆっくり動き始める。
バスケットボールを余裕で掴めるほどの大きな手のひらが私の腰骨を撫ぜて、鳩尾、そして胸の膨らみに触れた。
両脚を抱えられると交わる角度が変わって、黄瀬君がもっと奥へと入ってくる。
ゆったりとした突き上げに、無意識に背中が弓なりになる。
すると、すぐ目の前にある形の良い唇が、満足したように緩い弧を描いた。

「先輩、ここ、弱いっすよね」

切れ長の瞳に見下ろされながら、甘く低い声がそう囁く。
そんなこと、もうずっと前から知っているくせに。
やっぱり黄瀬君は意地悪だ。
普段、何気無く私に向ける無邪気な笑顔も、試合中に見せる鋭い眼差しも。
セックスの最中に真上から私を見下ろしている、この綺麗な顔も。
年下の彼に、こんなにも翻弄されている。

「何、考えてるんすか?」

そんな顔して、と、腰を揺らしたままじっと覗き込まれたあと、その視線を逸らすより先に急に視界が暗くなり、熱い吐息が下りてきて唇がそっと重なる。
至近距離にまで近づいた瞳に咄嗟にきつく目を閉じた。

「何で、俺を見ないんすか?」

触れ合う距離で唇が、溜め息交じりにそう呟く。
すぐに諦めたように、柔らかな舌が唇を割って入ってくる。
舌先が触れ合い、すぐに絡められた舌が口内で蕩けて、重なっている下肢が同じリズムを繰り返して甘やかな刺激を与えられる。
繋がりながらのキスがやけに優しいから、嫌でも胸が高鳴ってしまう。
身体中が熱い。
快楽の波が何度もやってくる。
最後、しっとりと重ねられた唇が放れていき、酸素を求めて大きく深呼吸をした。
決して激しいキスじゃないのに、窒息しそうなほど胸が苦しい。
心臓がずきずきと音を立てている。
胸が痛い。
胸が、切りつけられるように痛い。

『ほら、あの人だよ。黄瀬君の』
『ええっ、フツーじゃん!』
『だよね。ホント普通過ぎ』
『あの程度で黄瀬君とか、マジで信じられない』

私だって信じられない。
どうして彼が、私を選んだのか。
こうして何度身体を繋げても、私には、黄瀬君のことが分からない。
濡れた唇に優しく耳朶を食まれる感覚に首を竦めると、想いとは裏腹に、もうすっかりと彼に馴染んでいる奥の粘膜が収縮を繰り返す。
途端、耳元に掛かる息遣いが乱れて黄瀬君の動きが止まった。

「……ピアス、付けてくれないんすね。気に入らない?」

少し上擦ったような声の問いかけに、私は戸惑いながらそっと瞼を開く。
白く霞んだ視界いっぱい、肩から二の腕にかけてのラインが映った。
鍛えられた筋肉がしっかりとついた男らしい上半身と、甘さを感じさせる整った顔立ちを間近に見せられ、恥ずかしくて眩暈を起しそうだ。
さらさらと揺れる髪の隙間から覗く、銀色のピアス。
それと同じ物を私はまだ一度も付けることが出来ずに、大切に大切に、しまったまま。
何も応えられないでいると黄瀬君はどこか寂しげに微笑んで見せて、そんな彼の顔を見上げている私は、泣き出してしまいそうほど胸が切なくなった。
それ以上は何も話そうとしないで、大きな身体がまた動き始める。
首筋に下ろされた舌先が鎖骨の窪みを丁寧に辿り、その刺激にさえ身体がぶるりと震える。
苦しさと快感が同時に押し寄せる中、軽く眉根を寄せた黄瀬君の顔に密かに視線を奪われた。
さっきよりも大きく腰を揺らして、彼の息遣いも弾むように荒くなる。
大きな手が私の手首を捉えて強い力で包み込むと、もっと奥へと押し入ってきた黄瀬君が、深い場所で一際硬く張りつめた。
どくりと跳ねあがった快感。

「……ハロっ……」

私の名を呼びながら、すぐ真上にある綺麗な顔が苦しそうに歪んで肩口に覆い被さった。
そして黄瀬君の部屋には、二人の湿った息遣いだけが聞こえている。
しっとりと汗ばんだ肌に見蕩れながら、逞しい両腕に優しく、そして強く、抱き締められて。
乱れていた二つの呼吸が少しずつ落ち着きはじめると、不意に上から小さな掠れ声が聞こえた。

「……ペアとか迷惑っすか? 何か、年下の俺がひとり盛り上がってるっつうか……」

いつもの黄瀬君らしくない、自分の言葉に戸惑っているような、抑え気味の声音。
するとほんの少しだけ間を置いて、身体にまわされた腕にぎゅっと力がこもった。

「俺、真剣っすから。ハロさんのこと」

彼のこんな声を聞いたのは初めてだった。
以前は着痩せして見えていた厚い胸板から、鼓動が聞こえてきた。
その言葉に嘘がないことを示しているかように、落ち着き始めていたはずの心臓がどくんどくんと、また大きな音を立てて。
……黄瀬君の気持ちが、自然と伝わってくる。
分らないと思っていたのは、私だけじゃないのかも知れない。
胸の痛みはまだ残っている。
でもそれは、さっきまでの切りつけられるようなあの痛みとは、少し違うものだ。
今夜から、肌と髪のお手入れを頑張ろう。
メイクも、ネイルも、ファッションも、少しでも彼に相応しい子になれるように、毎日努力をしよう。

「明日から付けようかな……ピアス」

小さく呟いてから耳元に掛かる綺麗な金髪を指先でかき上げて、ピアスの付いた耳朶におずおずと触れる。
黄瀬君は驚いたように目を見開いたあと、擽ったそうに肩を竦めて嬉しそうに笑う。
そして指先を優しく絡め取り、長い睫毛を伏せながら、まるで王子様がお姫様にそうするように、私の手の甲にそっとキスを落とした。




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