First confession

ふと目が覚めて感じる、ニールの温かさ。
額にかかる規則正しい吐息が私の心を満たしてくれる。
それは今、私が彼の腕の中にいる証拠なのだ。
腰にまわされた腕の重みさえ嬉しくて、そっと身体を摺り寄せてみる。
目の前にはニールの広い胸があって、以外なほど逞しい胸板に彼が着痩せするタイプなのだと初めて知った。
私よりも綺麗な素肌に女として劣等感を感じてしまうのは、最初から分かっていたことだけれど。
すると「……ん」と、小さく掠れた声が男らしい喉元から聞こえてどきりとしたが、彼はまだ目を覚まそうとはしなかった。
そっと顔を上げると、吐息が掛かるほど近い距離に見えるその整った顔立ちに見惚れてしまう。
長めの前髪に少しだけ隠されたその寝顔は溜め息が出そうなくらいに格好が良くて、見ているだけで鼓動が速くなっていく。
閉ざされた瞼を縁取る長い睫毛に真直ぐ通った鼻筋、薄く色付いた唇に男らしい顎のライン。
こんなにも間近で見たことなんて一度もなかったから、これはチャンスとばかりにニールの寝顔をじっと見つめる。
見れば見るほど整った顔立ちに、大人の男が持つ艶やかな色気さえ感じる。
すぐ目の前にある少し薄めの唇を見た途端、昨夜言われた彼の言葉を思い出して一気に顔が熱くなった。

『優しくするからな』
『……ここが感じるのか?』
『お前のこと、大切にするから』
『ハロはもう、俺のものだ』

耳の奥に残る甘く低い声で囁かれた沢山の言葉を思い出すと、恥かしさと切なさで胸が痛くなってきた。
私を抱き締めるように横たわった身体は、鍛えているらしく細身なのにしなやかな筋肉が付いていて、昨夜この腕に抱かれたのかと思うとそれだけで息苦しくなり、もうどうしていいのか分からないほどで。
どれだけ見つめても全然足りない……ずっとずっと、眺めていたい。

「ニール……」

無意識に呟いてしまった名前に自分で驚いてしまい、起こしてしまったのではないかと心臓がうるさい位に騒いだが、彼の表情に変化は見られない。
ほう、と静かに安堵の溜め息を漏らしたあと、もう一度だけ小さな声で呼んでみる。

「……ニール」

どうしてこんなに綺麗な人が、私なんかと...…?
私は自分の気持ちをはっきりと告げてはいなかった。
もし彼の目の前でそんなことを口にしたら、恥かしくて死んでしまうかも知れない。
今だってこうしてニールの腕に抱かれていることが、もしかしたら夢なのではないかと疑ってしまいそうだった。
だから今、眠っている愛しい人の前で、初めての告白を。

「ニール……あなたが、大好き……です」

私は顔を近付けて、形の良い唇にそっと自分の唇を重ねた……その時。
腰にまわされていただけの腕に強い力で抱き寄せられて私達の身体はぴたりと密着し、重ねただけの唇も強く押し付けるように塞がれた。
そのまま暫くの間、強く抱き締められながら長いキスが続く。
昨夜のような舌を絡め合う官能的なキスではない、合わせるだけの、けれども深いキス。
苦しいほどに抱き締められていた腕の力が緩むと、ゆっくりと唇も放されて近い距離で見つめられる。
私は急に綺麗な碧の瞳に見つめられて、まるで金縛りにでもあったように動くことも目を逸らすことも出来なかった。

「やっとハロの本心が聞けたな」

嬉しそうに微笑む顔があまりにも近過ぎて、息をするのも忘れてしまいそうで。

「ったく、本当のところお前がどう思ってるのか、内心ひやひやしてたんだぜ? はっきりと気持ち確かめないまま、こんなことしちまったからな」

(……こんなことって、昨夜のこと?)

「俺だけが想ってるんじゃないかって、抱いた後になって心配したぞ?」

(……そんなこと思ってたの?)

少しだけばつが悪そうに照れたニールの表情を見て、私はやっと我に返ったように声を出した。

「どうして私なんか? 何の取りえもないし、美人でもないし、スタイルだって……なのに、どうして?」

するとニールは真剣な顔で、けれど優しい視線で私を見つめる。

「自分の魅力に気付いてないんだよ、お前さんは」

(魅力なんて、そんなものあるわけないのに……それはニールが持っているものだよ?)

「ハロは綺麗だ。黒い瞳も、赤い唇も、長い髪も、その声も」

(嘘だよ……そんなこと言ってくれたのは、生まれてから今までニールだけだよ?)

「もう全部、俺だけのものだろ?」

苦しくらいに胸が高鳴って、もう心臓の音と速さが限界を超えているようにさえ感じる。
ニールは上半身を起こすと私を両腕の間に閉じ込めて、真っ直ぐな瞳で見下ろしてくる。

「……返事は?」

優しい声で聞かれているにもかかわらず、有無を言わせないはっきりとした口調が上から降ってきた。
長いブラウンの前髪が私の額につきそうで、その先にある翡翠のような瞳に艶めいた色気を浮かばせて。
熱っぽい視線で射抜かれて、見つめ合ったまま頷くことしかできない私に、ニールの唇が落ちてきた。
ゆっくりと下りてくる唇からは、既に赤い舌先が覘いている。
これからされるキスはきっと激しいものなのだろうと思いながら、私は痛いくらいの胸の高鳴りを感じ、そっと瞼を閉じた。




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