Pretty lover

然程広くもない私のベッドルームには、二人の湿った息遣いだけが聞こえている。
ひとしきり快楽に溺れた私達はお互いの身体を重ね合ったまま、情事の余韻に浸る。
今日のニールはいつにもまして早急で、どこかいらついていたように感じたのは気のせいだろうか。
私の上に覆い被さったままのニールの重みが心地よくて、彼の汗ばむ首筋にそっと唇を押し当てた。
すると上半身だけを離した彼に真上から見下ろされ、それでも行為直後の気恥ずかしさから、その綺麗な顔を直視する事が出来ない。

「ハロ、こっち見て」
「……嫌」
「ハロ」

名前を二度呼ばれて、せめてもと未だ乱れた呼吸で上下する目の前の美しい胸筋に目を向けるけれど、すぐにニールのキスが降ってきて唇を塞がれる。
重なったままの腰に感じる彼自身は衰える事を忘れたかのように、吐精する前と然程変わらない質量を保ち続けていた。
流石に若い……などと頭の片隅で思いつつ、蕩けるようなキスを味わいながら、まったく何でこの子はこんなにキスもセックスも上手いの?と、いつもと同じ疑問を頭に浮かべる。
それと同時に五つも年下の、それもハイスクールの自分の生徒にベッドでの主導権を毎回握られている私ってどうなの?と、胸の中で独り言ちる。
不意に唇が離れていき不思議に思い目を開ければ、見上げた先にある端整な顔は何故だか少し不機嫌そうだ。

「……どうしたの? ディランディ君」

悪戯心からわざと教師の顔をしてファミリーネームで呼ぶと、ニールは更に不機嫌さを増したようで眉を寄せて見下ろされる。

「その呼び方止めろって。ハロ、キスの最中何か考え事してたろ?」

何でキミはそんな事まで分かるの?と、半ば呆れながら、こういう所はまだ可愛らしい歳相応の独占欲なのだと頬が緩む。

「明日の授業の資料、これから集めないといけないの」

別に急ぎではなかったけれど、いつもみたいにこのまま何時間もニールとベッドの中で過ごすのは、大人として教師としてよろしくはない。
(その前に教え子となんて人としてどうか、とは十分自覚している) 
目の前にあるニールの逞しい肩を力一杯押し上げると、そんなの後でいいだろ!と文句が聞こえて、彼の身体は私のすぐ隣にどさりと転がった。

「先生は何かと忙しいのよ?」

嘘でも大人の余裕を見せるようににっこりと微笑んで起き上がり、床に落ちている黒い下着に手を伸ばす。

「なんでそんなに色っぽい下着付けて授業すんだよ」

後ろから不貞腐れたニールの声が聞こえてくる。

「別にこの格好で授業してたわけじゃないでしょ?」
「今日のスカート、短過ぎだって」
「いつもこれ位だけど?」

何故か今日のニールは、やけに突っ掛かってくる。
普段の彼は十八という年齢を感じさせないほど大人びていて、他の男子生徒が随分と子供っぽく見えてしまうほどだった。
容姿も中身もクールな彼の存在は余りにも秀でていて、他の生徒とは比べ物にならない。
当然女生徒にも大人気で、その類いの話は教師である私の耳にまで入ってくる。
おまけに文武両道ときているから、生徒のみならず教師達からの信頼も絶大だ。
そんな非の打ちどころのないニール・ディランディが、若い女教師の部屋のベッドの上に裸で寝転んでいる姿を誰が想像するだろう?

(もしばれたら、どんな事になるやら……)

想像しただけで背筋が寒くなってきた。

「……今日、」

何故か躊躇いがちに聞こえたニールの声に私は耳を傾ける。

「今日も廊下で他のクラスの奴等が一回でいいからハロとヤリたいって話してたんだぜ? マジでぶん殴ってやろうかと思ったけど、俺たちの事ばれちまったらハロに迷惑掛かるだろ? だから歯食いしばって我慢した。半年したら絶対あいつ等ぶん殴る」

半年後ニールが卒業したら、私達の教師と教え子という関係にピリオドが打たれる。

「お前さ、かなり男に人気あるの自分で分かってるか? その度にどんだけ俺がムカついてるのか知らねえだろ?」

こんな風に感情を露にして喋る彼はめずらしい。

「惚れてる女の名前出されてヤリてえとか夜オカズにしたとか、しょっちゅう聞かされてみろよ。……ったく、たまんねえよ」

(もしかして、今日のニールの機嫌の悪い原因はそれ?)

下着を付けようとしていた手を止めて後ろを振り返ると、私の後姿をじっと見ていたらしい彼と視線が合った。
少しだけ寄せられた眉に、碧色の綺麗な瞳が少し歪んで見える。
怒っているような、悔しそうな、彼の顔。
いつも涼しげな顔をしているニールの、初めて見る表情だった。

(ニールは最初から、本気だった?)

一年前に彼から好きだと伝えられて、まるで綺麗な瞳に吸い込まれてしまうように私は彼を受け入れてしまった。
同年代の少女では大人びた彼には物足りないのかも知れない、そう思っていた。
だから私との関係も、好きという感情はあっても若過ぎる身体を満たす為のものなのかも知れないと、自分に言い聞かせて。
だけど……いいの? 私も本気になって……。
無性に彼に触れたくなった私は、腕を伸ばして茶色の柔らかな髪に指を差し込む。
するとその指先をニールに優しく掴まれて、形の良い唇にそっと押し当てられた。

「早くハロを俺だけのものにしたい。あと半年、待っててくれよな」

泣きたい位に嬉しかったけれど、それは半年後にとっておくとしよう。

「……明日からスカート穿くの、止めようかな」

笑いながら言うと、彼の唇に触れたままの手のひらを強く引き寄せられた。
そのままニールの胸に倒れこんだ身体を、力強い腕が抱き寄せてくる。

「止めるんじゃなくて、俺といる時限定で着ろよ」

じゃないと脱がせづらいだろ?と言いながら、ウエストのラインを指先で撫で上げられて、そのぞくりとした感覚に身を捩る。

(本当にこの子、十八歳なの?)

今の彼の顔は、昼間教室で制服に身を包んでいたニールとは全く違う、ただ私の身体を求める男のそれで。

「授業の資料集め、俺も手伝うからさ……もう一回抱かせて?」

耳に付いてしまうほど寄せられた唇から艶めいた掠れ声を吹き込まれて、私の思考はまんまと惑わされてしまう。
そして返事もしないうちに始められた愛撫に、堪らず私も腰を揺らし始めてしまった。



すみません、やっちゃいました……初パラレルです。
身体は大人、でも中身はまだ幼さの残る十八歳ニールさんをイメージしてみました。
制服は勿論ブレザーです。







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