Whereabouts of the first mission(3)

データスティックを無事に解析班へ受け渡したあと、ライルは何も言わないまま私のマンションに向かってラリーを走らせた。
そして合鍵を使ってドアを開けるなり中へと引き込まれ、力強い腕がその広い胸の中に私を閉じ込める。
鍵の掛かる音を背中越しに聞きながら、声を掛ける間もなく目の前に下りてきた唇が私のそれに触れた。
身構えたまま、そっと瞼を閉じる。
久し振りのキスだった。
本当に、何ヶ月か振りの。
確かめるように何度も重ねられていく唇。
ライルの舌が入り込んできた瞬間、身体中が甘く痺れた。
頭の後ろを引き寄せる掌のせいで合間に息継ぎをするのも苦しい。
不意に唇が離れてふらついた身体を、逞しい両腕に支えられる。
真上から見下ろされて間近で視線が絡み合い、初めてライルと結ばれた日のような例えようもない切なさが、胸の中一杯に広がっていく。

「ハロ」

耳のすぐ傍で囁かれた低い声に背筋がぞくりと震える。

「あんな簡単に誘われやがって」

長身を屈めながら首筋に触れた唇が、痛みを与えるように赤い印を残した。
温かな舌先がそのまま鎖骨の輪郭をなぞり、肌の上を濡らしていく。
堪らなくなり広い背中に腕を回しかけた時、ライルの両腕が難なく私を抱き上げて奥の部屋へと進み、無言のままベッドの上に降ろされた。
見上げた先で、ライルがゆっくりとした仕種で両手からグローブを外している。
窓から僅かな月明かりが差し込む中、妖しいほど綺麗な碧色の瞳が、真っ直ぐに私を見下ろしていた。
薄暗くてもはっきりと、その視線が熱を孕んでいるのが分かる。
大きな身体が自らの重みで私の身動きを封じ込めるようにして覆い被さり、ぎし、と軋んだ音を立ててベッドが大きく揺れた。

「あの男がどんな目でお前を見てたか、分かるか?」

眉をひそめた顔がそう言いながら、内通者の男が触れてきた時のように脇腹から腰骨をゆっくりと撫でていく。
どうしていいのか分からずに身を捩ってみても、ライルの掌はどこまでもついてくる。

「今、俺がハロを見ているのと同じ目だ」
「あ……、やっ……」
「気に入らねえ」

こんな風に触れてくるなんて酷く意地悪だと思うのに、身体が疼いて熱くなって、どうしようもないほど切なくなってしまう。
距離を取ろうと肩を押し上げても、それを阻んだ両手が薄いニットをたくし上げ、晒された肌の上を薄い唇が滑る。
胸の膨らみの上にちゅ、と軽く吸い付かれただけで身体がびくりと跳ねた。
ブラジャーごと膨らみを押し上げる骨ばった指の感覚が、いつもよりも強くて荒々しい。
それを上から見つめる瞳は、何を考えているのだろうと不安になった。
少し眉を顰めた精悍な顔つきに息苦しいほど胸がざわめく。
強く押し上げたブラジャーの端に指先を掛けて、そこから覗いた頂を唇が覆い、口の中に含んだ。
身震いが起きて喉の奥から声が零れる。
唇で挟み、きつく吸われながら、執拗に動く舌が先端を弄ってくる。
スカートの中に差し込まれた右手が内腿に触れ、咄嗟に力を込めた両脚にも容易く割って入ってきた素手が片腿をぐっと押し開く。
そしてライルの髪が胸元から鳩尾へと下りて行き、その先にまで進もうとした。
形の良い唇の隙間から、僅かに覗いた舌の動き。
抗うように伸ばした掌が茶色い髪に埋もれて指先に絡みつく。
薄い布越しに生温かいものが触れ、私は我慢しきれずに短い声を漏らし、柔らかな髪を掴んだ。

「ん、ん……っ」
「……あれくらいで余裕失くしちまうとはね。自分でも呆れる」

腹立たしげな掠れ声が聞こえ、熱い吐息が下腹部に掛かると無意識に腰が揺れた。
ライルの体温を感じるだけで息が上がり、身体の奥から蕩けたものが溢れてくる感覚が自分でも分かる。
一旦離れていった上半身が、自らの身体から荒い手つきで服を引き抜いて、ベッドの下へ放り捨てた。
月明かりが照らしているのは、ほんの少し前にラリーの助手席から盗み見ていた、男として完璧なボディライン。
何度見ても、この引き締まった身体には目を奪われてしまう。
急いた手つきでショーツを脱がされながら、不意に目と目が合った。
眉根を寄せて、男っぽい吐息を繰り返して。
いつもとは違う眼差しに魅入られてしまい、自由を奪われたように身動きが取れなくなる。
我慢し切れないほどの羞恥心に全身が熱に包まれ、心臓が苦しいくらいに胸を叩く。
責めるように見つめられたまま、長い指が私の腰からショーツを抜き去った。
そして両腿を押し広げられた途端、何の前置きも無く、ライルがそこに顔を埋めた。
私が上げた小さな悲鳴にも構わず、直に窪みをなぞっていく舌先に一瞬呼吸が止まり、意識が飛びそうになる。
奥へと滑り込んだ熱くて柔らかな感触に、声にならない刺激が腰から爪先へと駆け抜けていく。
いつもよりも深い場所にまで届いている気がして、ライルが淫らな音を立てる度、自分でさえ聞いたこともない声音が口から溢れて、あまりの恥ずかしさに涙が滲んだ。

「もっと、泣くほど気持ち良くしてやる。だから触れさせんな、俺以外誰にも」

低く囁いたその声に、鼓膜さえ擽られて。
さっきよりも深くまで這入ってこようとする舌先が、耳を塞ぎたくなるような卑猥な音を立てた。
びくびくと跳ねた腰が浮いて背中を反らせると、力の入らない足を持ち上げられて大きく開かれた。
身体の芯まで溶かされる……白く霞み始めた視界に私はきつく目を瞑った。



目覚めた時、隣にライルの姿はなかった。
乱れたシーツの上に独りきり、力の抜けきった身体を小さく丸めて深く息をつく。

「……もう行っちゃったんだ」

抱き合う度に激しいと思うけれど、昨夜の彼は容赦がなかった。
自惚れじゃなければ、その原因は嫉妬。
本当ならそんなもの、これっぽっちも必要ないのに。
肩に掛けられていたブランケットを首まで引き上げ、くるまりながら、ぼんやりと眺めた窓の向こうはまだ薄暗い。
そろそろ夜が明ける頃だ。
空が僅かに明るくなり始めている。
今頃、何処を走っているのだろう。
ふわりと、彼の残り香を感じた。
逢えなかった時間を埋めるように何度も交わった。
身体の奥が熱い。
私の深い場所で脈を打ったライルの感覚が、まだ残っている。
最後、余韻に浸るように、そして名残惜しむように、達した後も一つになったまま腰を揺らし続けるライルに何度も名前を呼ばれた。
それでも、彼の身体の重みも体温も、もう感じられない。
まともな会話すら、していない。
胸が締め付けられる。
また、逢えない日が続いていく。

「ライルのばか」
「勇ましいねえ、さっきまで泣いて好がってたくせに」

その声に驚いてベッドから起き上がり声の方へと振り向くと、開けっ放しのドアに凭れたライルが目元を緩め、ほんの少し口端を上げた。
放心している私へと近づいて、持っていたペットボトルの水を口に含み、そっと唇を重ねてくる。
与えられた水を素直に飲み込めば、すぐに差し込まれた舌が私の舌先に絡んだ。
長い指が私の頬をなぞり、そっと包みこむように掌を添えられると、心と身体が震えた。
こんなにも近くにライルを感じている。
そっと顔を離し、彼を見つめた。
ライルに逢いたかった。
ずっとずっと、逢いたかった。

「……逢いたかったの」
「俺もだ。ハロ……お前に逢いたかった」

真顔になったライルに見下ろされ、もう一度ベッドに沈められながら胸の谷間に顔を埋めて、そこにキスを落としてくる。
まだ高揚感の抜け切らない肌は敏感で、否応なしに感じてしまう。

「待ってライル、もう……っ」
「この厭らしい身体を知ってるのは、俺だけでいいんだよ」

治まりのつかない感情に、二人して突き動かされていく。
熱を取り戻すように、また中を満たされて。
最初は優しかった腰の動きもいつの間にか激しさを増して、揺さぶられる度にまた泣きながら、私は何度も甘い声を上げた。



窓から入ってくる眩い光に背を向けたまま、私は深い溜め息を付いた。
職場と、あとリーサにも早く連絡しなければ……。
そう思っても、まだ少し汗ばんだ身体は酷く重くて、すぐには動けそうにない。
なんて自堕落な…と、落ち込んでいる私の隣ではベッドの上に胡坐を掻いたライルが、端末のモニターに映し出されている険しい表情の人物に向かって謝罪している。

「ティエリア、お前独りに偵察任せちまって本当にすまなかった」
『その言葉が本心なら、まず何か羽織れ』
「ああこりゃ失礼。久々だったからな、つい夢中になっちまって」
『黙れ。君とハロはソレスタル・ビーイングの理念を今一度理解する必要がある』
「悪かったよ。これから急いでそっちに向かう」
『情事にうつつを抜かしている愚か者には、これ以上付き合いきれない。新型のデータは収集済みだ。僕は一足先に戻らせてもらう。あと半日、愚か者同士好きに過ごすといい』

すぐに通信の切れたモニターに向い、ライルが含み笑いをして見せた。
そして私に視線を向けながら、嬉しそうに目を細める。
額にかかった少しくせのある長い髪を後ろへとかき上げて、どこか悪戯っ子のような笑顔で。
私だけに見せてくれる、この表情が好き。
光に溶けていきそうなほど、透けるように綺麗なエメラルドグリーンに私は見蕩れる。
顎を優しく引き寄せられて、また唇が重なった。
……ハロ
……うん?
……愛してる
同じ未来を見つめている。
だから、また逢える。
どんなに遠く、離れていても。




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