A future story (1)

微かに流れる空気が肌の上を撫でていく。
浅い眠りから覚めて薄く目を開くと、隣で眠っていたはずのハロがベッドの上に座りながら、半分開いた窓へと視線を向けていた。
青白い月の光に照らされた彼女の素肌はやけに官能的だった。
静かに窓辺を見つめるその姿を、俺は黙ったまま眺め続ける。
窓の外には、綺麗に弧を描いた月と、瞬くように輝いた無数の星。
黒い瞳が見つめる先は、あの夜空の向こう側に広がっている果ての無い闇なのかも知れない。
その場所で失ったものを探しているかのように、ハロはいつまでも動こうとはしなかった。
身体の奥に感じる、ひりつくような痛み。
それでも目を瞑ってしまえばそのままハロが消えてしまいそうで、すぐにでもきつく抱き締めてしまいたくなる。
何年経とうが俺はこんなにも、彼女が恋しい。

「ハロ」

ゆっくり振り向いた顔は月からの逆光でよく見えない。
肩に掛かった長い髪先に手を伸ばして触れる。

「どうした? 眠れなくなっちまったか」

ハロは何も言わず首を小さく横に振ると、細くしなやかな指を俺の髪に差し入れて後ろへと梳いていく。
その指を優しく絡め取り、自分の唇に押し当てた。

「冷てえ」

上半身を起こして薄い肩口に顔を埋める。
柔らかくすべらかな肌はいつでも仄かに甘く香る。
唇で項へのラインをなぞれば、声にならない吐息が零れた。
衝動が駆け上がっていく。

「あっためてやるよ」

僅かに震えた肩には構わず、片腕で背中を抱き止めながらハロを後ろに押し倒した。
ぎしりと揺れたベッドの上、淡い月明かりを受けた美しい彼女を胸の下に閉じ込めて前髪にそっと唇を落とす。
そのまま魅入るように眺めると恥ずかしそうな顔をして身体ごと横を向いてしまうから、目の前にある小さな耳朶を唇で軽く挟んでやる。
つい見惚れちまった、そう低い声を吹き込めば余計に恥ずかしいのか、腕の中の身体が小さく身じろいだ。
頬を掬い上げ、薄く開いている唇を舐めて隙間に舌を滑り込ませた。

「んっ……」

ハロが漏らした吐息さえ愛しくて、それを奪うように唇を甘く吸い上げる。
舌を伸ばして口内を擽り、抵抗がないのをいいことに奥深くで舌を重ね、絡め合った。
角度を変える度に濡れた唇の隙間からくぐもった声が聞こえ、次第に息が上がり始める。
心許なさげな掌が肩を掴み、唇を放して額と額を触れ合わせた。
間近にある蕩けた眼差しに己の昂ぶりを隠すため、悪戯にふっと笑う。

「もう感じてる? キスだけで?」

目元を赤く染めたハロがまた顔を背ける。
無防備に晒された白い首筋。
そこへ何度も口付け、舌を這わせ、甘噛みする。
ショーツの横から滑り込ませた指先が熱くぬかるんだ場所に埋まり、ハロの腰が大きく跳ねて肩の上の掌に力がこもった。

「ニール……あっ……」

こんな声に呼ばれて欲情するなという方が無理だった。
その背骨が軋むほどの力で、強くハロを抱き締めたい。
細腕を組み伏せ、深くまで貫いて、思い切り淫らな声を上げさせたい。
俺はこんなにも欲深な人間だったのか。
暴走しそうになる欲望になけなしの理性を働かせ、指先をゆるく動かしながら愛してると囁いた。
互いの下着に素早く手を掛け、ハロの反応を確かめながらゆっくりと腰を沈め、緩やかに動き始める。
不意に待ってと言いたげな掌が下から胸を押し上げて、軽く息を止めて腰の動きを休めると、浅い呼吸を繰り返すハロが顔を上げた。
潤んだ眼差しに見上げられ、ぞくぞくとしたものが身体中を這い回る。
それでもどうにか上半身だけを離し、熱に滲んだ瞳を真上から見下ろした。

「どうした?」
「ニールは我慢してる。無理に優しくしようとしてる。いつも、辛そうに見えるの」
「辛そう? ハロにはそう見えるのか?」
「会いにきてくれて、それから抱いてくれる度、ずっと」
「無理なんかしちゃいねえよ。お前を大切にしたいだけだ」
「……でも、我慢はしてる」
「まあ我慢の方は、全くしてねえって言えば嘘になっちまうが」

見透かされていた後半の答えを誤魔化すように小さく笑った俺を、悲しげな表情が見上げ、長い睫毛が下を向く。

「私はあの日から……初めて逢った時から、あなたに惹かれてた。それなのに私は――」

まさかそんな言葉を返されるとは思いもしなかった。
尚も話を続けようとするか細い声に先を言わせないよう、優しく頭を引き寄せて唇を塞ぐ。
触れるだけのキスを繰り返しながら心地良い手触りの髪に指を差し込み、宥めるように何度も撫でた。

「お願いだから、我慢なんてしないで」

切なげな声と眼差し。
それは愛おしさを募らせるだけでなく、背筋をぞくりと震えさせる。
ハロの中に収まったままの自分が性急に大きくなっていく、生々しい感覚。
それに気付いた彼女の、艶かしい吐息。
身体の奥から湧き出てくるどうしようもないほどの激しい熱に抗えなくなる。

「あー……まずい。もう加減出来そうにねえわ」

続きをせがむようにハロの唇を親指の先でなぞると、一瞬、黒い瞳が揺らぐ。
それでもハロは色っぽく微笑んで、自分の頬に落ち掛かった俺の前髪を優しく梳き上げた。

「いいよ。ニールになら何をされても構わない」

言いながら、まだ少し冷たい指先が右目に残る傷痕に触れた。
瞬間、甘く獰猛な欲望が身体を駆け抜けていき、無性に彼女が欲しくなった。
柔らかな唇にキスを落としながら、自分はどれだけハロに飢えているのかと思い知らされる。
ゆっくりと腰を引き、そしてまた深く沈ませながら大きく腰を動かし始めた。
ゆったりとした動きを徐々に速めていくと二人の息遣いが乱れはじめ、ハロの口から漏れる喘ぎ声も次第に大きくなり、艶やかさを増していく。
膝を肩に担いで奥を突き上げると繋がりが今まで以上に熱く蕩けた。
肌がぶつかる音、うねるような圧迫感。
手の甲で口元を隠す仕草が感情を煽り立てる。
気が遠くなりそうな快感がせり上がり、一層抑えが利かなくなる。
腰を激しく揺さぶりながら鎖骨の窪みに容赦なく舌を這わせ、体重を掛けてもっと深くを求めた。
細い指先が皺だらけのシーツを掴み、下唇を噛んで喉を反らせたハロを見下ろした俺は、これ以上無いほどに満たされていく。
シーツを手放した掌が首の後ろを手繰りよせ、俺の頭を掻き抱いた。
甘い声音が何度も名を呼ぶ。
愛し、愛されている、そう強く実感する。
そのまま頭の中がまっ白になりそうな刺激に俺達は身を任せた。
そのあと何回達したか覚えていない。
窓の外が白み始めた頃、力の抜け切ったハロを腕の中に入れたまま、漸く治まりのついた自分の身体を落ち着かせていく。
この肌の体温が、ただ愛おしい。
ハロを愛してる。
彼女と出逢えなければ、こんな想いを知らずに生きていた。
窓から差し込む光の中、まどろんでいる安らかな顔を俺はいつまでも眺め続けた。




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