Change my world (8)

僅かに瞼が痙攣して、うっすらと映った視界がぶれる。
ニールはすぐに目を開き、咄嗟に両手をシーツについて、覆い被さるように重なっていた身体をすぐさま離した。
目を閉じているハロの口元へ耳を寄せると苦しげな吐息が漏れて、薄く開いたままの唇から次第に静かな呼吸音が聞こえ始める。
その様子に安堵して、汗ばんで力の抜けきった自分の身体を両腕で支えた。
己の失態に深く息を吐き出して顔を顰めると、湿った前髪が額から頬へと落ちていく。
セックスで反応するのは身体だけだった。
性欲さえ満たしてしまえば、誰を抱いても相手に執着することは無い。
気付けば、聞こえてくる静やかな呼吸音に耳を澄ませている。
幾つもの赤い痕を残した身体を、ただ見下ろしたまま。
達したあと一瞬でも気が遠くなるほど、夢中になって腰を揺らした。
初めて女の肌に触れた時、否、それ以上に溺れた。
抗う身体を腕の中から逃したくはない、ハロの奥深くにまで自分を刻み付けたい、そう思った。
理性も自制も全部、消し飛ばしてしまうほど。
ハロの瞼を縁取る睫毛の先に付いた小さな水滴は、ニールの汗なのか、それとも涙の跡なのか。
さっきまでの熱がまるで嘘のように、両腕の間に収まっている裸体はぴくりとも動かない。
膨れ上がった劣情のままに犯したはずだった。
最後、重ね合った唇の熱さに、互いの名を呼び合い、そして応えた。
まるで恋人同士のように、確かめ合いながら。
全身が、意識さえも灼けて。

「馬鹿げてる……」

無意識にニールの口から自嘲の呟きが漏れた。
今なら、苦しませることもない。
撃たれたことにさえ、気付かないだろう。
静かに上半身を起こし、ベッド下に差し込んでおいた小さな銃を取り出す。
ゆっくりと引いたスライドから小気味よい作動音が聞こえても、ハロは目を覚まそうとしない。
意識を手放したまま、小さな上下を繰り返している胸に銃口を向けた。
あとは引き金を引くだけでいい。
フラッシュバックのように脳裏を駆け抜けていく、悲惨な光景。
サーシェスに対する憎悪、家族を失った苦痛は、言葉にできるものじゃない。
そんなもの、できるわけがない。
ニールは奥歯を噛み締め、速くなる心臓の鼓動を抑え込むように一度きつく目を閉じた。
せめぎあう。
心の奥底から湧き起こる感情を制御しようとすればするほど、それは大きくなっていった。
認めたくなかった。
こんな感情を。
ひでえブラックジョークだな、と、いつものように引き上げたつもりの口角が引き攣り、そして歪んだ。
何故、この女なのか。
あの瞳に、視線に、表情に、彼女の全てに、強く惹かれた。
多分、初めてその姿を見た瞬間から。
そして奪いたくなった。
殺そうとしてでも、あいつから奪ってしまいたかった。
心臓を握り潰されるような息苦しさをこらえて瞼を開き、銃を構えていた腕から力を抜く。
苦しい。
何故だ。
しかしニールには分かっていた。
誰よりも自分が一番分かっていた。
今の自分にハロを撃つことは出来ない。
端正な面差しが苦しげに眉を寄せ、額に滲んでいる汗を無造作に拭う。
ベッド横に落ちていたブランケットで痛々しい裸を覆い、シーツへ流れ落ちた髪を指で梳いた。
壊れ物に触れるようにハロの頬を撫でると、狂おしいほどの愛しさがこみ上げ、胸を掻き毟りたくなる。
この胸の痛みの激しさが自分の愚かさだと、青年は顔を歪ませた。






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