忘年会での一夜
『では、一年間お疲れさまでした!乾杯』
『『乾杯!』』
学年主任の言葉とともに
一斉にグラスを振り上げる。
今日はいわゆる忘年会というやつで
二年生普通科の教科担任陣で居酒屋にきている。
といっても家庭がある先生もいるようで参加しているのは
俺(近江)と保坂先生、生物の先生、英Uの先生、WRの先生ってところか…
前までは旧笹岡先生こと現水越先生もいたけどご結婚されてからは…当たり前か
とりあえずみんな各々酒を煽りはじめる。
俺もビールを一口のんで回りをみる。斜め前の学年主任は日本酒だった。
さすが… …!ふと目の前の長江先生と目があう。
カシスオレンジのカクテル的なものを片手に
頬杖をついてどこともなく宙を眺めていた。
よくみるとかなり保坂先生って童顔だな…というか可愛い顔してる?
俺もよく女顔だどうだか言われるけど…
っとまあこんなことを考えてると結果的に保坂先生を
ずっと見つめる結果になってしまったわけで向こうもこっちに気づいた。
『近江先生どうしましたか?』
『あ、いや…そのお酒美味そうだなって』
とっさについた嘘。
そりゃ 先生の顔が可愛い顔してるな、っておもってましたなんていったら引かれる。
『ああ、これですか?僕ビール飲めないんですよ。一口飲みます?』
ちょっ!
『ああ、大丈夫です。自分のやつあるんで』
『そうですか…』
あああ、もう。何故しょげるんだ。俺どうすればいい。今までこんなことなかった…
『もうっ近江先生も保坂先生もせっかくの忘年会なんですし飲みましょうよ!』
とっさに投げ掛けられる言葉、まさかの英Uの先生だった。
ふと回りをみると英Uの先生とWRの先生のテーブル当たりには
すでにグラスが散乱している。
二人とも酒強いな…
なんか英語で話しはじめてるし…
生物の先生は生物の先生で
『生物はロマン!』みたいなことを暑く…いや熱くかたっている
いつもピリピリとした雰囲気が漂う学校とは違った感じがして面白いが
なんとなく俺が数学だからだろうか、保坂先生が気になっていた。
もう一度保坂先生の方をみると
少し肌を赤くそめた先生が二杯目にはいっていた。しかもおなじやつ。
『保坂先生』
なんとなくよんでみる。
『なんですか?』
『みんな盛り上がってますね自分の教科で』
『ああ、そういえばそうですね。じゃあ冬休み明けの課題考査の話しでも…』
『いや…保坂先生は数学好きですか?』
『もちろんです。近江先生は好きじゃないんですか?』
『いやあ…好きですよ。もちろん。
ただ、よく先生がニュートンだとかライプニッツだとかの話しをしてるって
生徒がいってたんで』
『そうですか!ニュートンとライプニッツの微分積分の発見のタイミングは
すごい僅差だったんですよ!』
『へぇ…』
…保坂先生の顔がかがやいてる。ホントに好きなんだな、数学
『近江先生なに話してるんですか?』
隣にすわっているWRの先生に言われる。
『ああ、微分積分について…』
『あははっ微分積分ですか?
私全然数学だめなんですよ、またこんどおしえてくださいね。』
『あ、はい…』
『私もー』
英Uの先生…酔ってますね。
こんなこんなでみんなノリノリで飲むこと約3時間後…
学年主任は静かに寝てるし、WRの先生と英Uの先生はまだ飲んでる、
保坂先生は机に突っ伏して寝てる…
ちゃんと几帳面に眼鏡外してるし…
やっぱり童顔だな、保坂先生。
…現時刻、11時。みんな酔ってるし、終電も考えるとそろそろ開かないと
まずいんじゃないか?
やるか…
『えー先生方。そろそろ11時ですしお開きにしませんか。』
『あっもうそんなじかんなんですねー。わかりました』
WRの先生がはじめに声をあげる。
それにつづいてみんな声をあげて帰宅の準備をする。
そして帰路に着こうと立ち上がった時 目の前の保坂先生がバランスを崩した。
とっさに抱き抱える。
『大丈夫ですか?』
『あ…すいません ほうみ先生…』
呂律まわってないなこれ…
『近江先生、すいませんが保坂先生任せてもいいですか?
私達3人はこれからシメにいくので…』
生物の先生にいわれる。シメって…まあいいか
『わかりました。』
店をでて歩きはじめる。保坂先生はまさに千鳥足で相当まずい。
『保坂先生大丈夫ですか?』
『すひません…』
俺より背の高い保坂先生の肩を支える感じで歩いていく
でも正直この状態で家に一人で帰すのはこわい。
『保坂先生、うちに今日は泊まってください。正直一人で帰すのが怖いんで。』
保坂先生をみる。
『へ?、そんな悪いです…』
『そんな千鳥足で悪いとか言われても介抱しないこっちが悪いんで…』
とか言ううちに最寄の駅までついた。
最終確認をとる。
『今日は俺の家に泊まらせますからね?』
『すいません、お願いします。』
少し伏せ目がちに言う保坂先生をみて
俺は不覚にも少し可愛いと思ったと同時に心のどこかに
熱いものが生まれてきた気がした。
でもこの感情は肯定しちゃいけないかもしれないような気がした。
電車にのり、歩いて俺の家についた。
保坂先生をベッドに座らせ水をわたす。
『シャワーは好きに浴びてください。そこの廊下の突き当たりです。』
『すいません、ありがとうございます。でもどうして…』
『人間として当たり前です。』
『そうですか…あっ近江先生。』
『なんですか?』
『二人きりの今だからいいます。僕は近江先生のことが好きです。』
『え…』
ドクン心臓が跳ね上がる
『はじめはそんなに歳がかわらないのにわかりやすく生徒に教えている先生のことは嫌いでした、でもずっとみていうちにだんだんと頭から離れなくなって、好きになったんです。同性愛なんて先生は理解できないかとおもいます。でも僕は近江先生が好きです。』
言葉をきくごとに心臓の鼓動は大きくなり
俺の中での違和感がすっとなくなるようだった。だから俺はいう。
『俺も、保坂先生のことが好きだと思います。』
『え…』
おもってもいない返答だったのかふと言葉が保坂先生の口から漏れた。
だからおれはもう一度いう。
『俺も、保坂先生のことが好きです。』
その瞬間保坂先生にベッドに押し倒された。
『つっ保坂先生!』
突然のことに俺は
保坂先生の顔をみる。
保坂先生の顔には涙が滲んでいた。
『本当に、僕を好きでいてくれるんですか、近江先生』
その不安そうな顔に俺はもう一度しっかりとした声でこたえた。
『俺は、保坂先生いや、保坂保友が好きだ。』
ポタ、ポタ…保坂先生の涙が俺の顔に落ちた。
とっても綺麗だと思った。
『ありがとうございます近江先生…!』
そういって二人で抱き合う。
そして保坂先生の唇と俺の唇がふれあう。
先生の唇からは微かにカシスオレンジの味がした。
そしてお互いぎこちないながらも互いを思い、そして愛し合った。
―――忘年会での一夜――次回につづく!
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