05

肉倉君は、UFOキャッチャーが上手という事が判明した。私が「可愛いなあ」と言った大きなアルパカのぬいぐるみ(ちょっとリアル寄り)を見た肉倉君は、「これの何処に愛らしさがあるのか」と呆れたように言いながら、おもむろにお金を投入したかと思うと、ほんの数回の操作でそれを取ってしまった。頭の良い人は、UFOキャッチャーも上手いのだろうか。抱き心地のいいアルパカは、今私の腕の中にいる。


そして、私は肉倉君の腕の中にいる。


誤解の無いように言っておくと、肉倉君は何の脈絡もなく、そんな行動を取る人間ではない。彼にそんなフレンドシップが備わっているなら、とっくの昔に友達が出来ている。つまり、肉倉君は何らかの事情があって私を抱きしめているのだ。それだけに、私は下手な行動が出来ない。

肉倉君は、「新プライズ登場!」という派手なポスターの貼られた柱を背にして、その陰から向こう側の様子を気にしている。肉倉君はさっき何かを見つけたみたいで、慌てて私ごと柱に隠れたのだ。

私も同じようにして柱の向こうを覗くと、士傑の制帽を被った男子生徒が3人いた。制服の新しさからして、1年生の子達だろうか。身を乗り出して顔を出していると、それに気付いた肉倉君が、私の肩を掴んで再び腕の中に収めた。

肉倉君は向こうを見て「士傑の名を冠する自覚が足りない」と言いながら怒っているけど、柱の陰から飛び出していく事はしない。自分もゲームセンターに来ている事がバレるからだ。しかし、咄嗟の行動にしても、私まで隠れる必要は無い。私は小声で肉倉君に話しかける。


「バレたら、肉倉君も生活指導コースだね」
「……その時は、貴様に無理矢理連れて来られたと真実を述べるまでの事」
「最低だ!!」


中学3年間をほぼ毎日一緒に過ごしただけあって、肉倉君が口にする本気と冗談の差は、なんとなく察する事ができる。というか、肉倉君が私に対して酷い物言いをする時は大体本気で言っていない。彼は意外と紳士的である。たとえ自分が不利になっても、友達を売ったりする事はしない。

なので、肉倉君が言った冗談にツッコミを入れた。中学時代にはよくあったやりとりだけど、この状況ではまずかったらしい。彼は「声を出すな」と言うと、背中に回していた手で私の後頭部を引き寄せた。私の額が肉倉君の肩に押し付けられる形になる。もこもこのアルパカが、私達に挟まれて、柔らかく形を歪めた。

前の頭ポンポンとは訳が違う。額と後頭部から伝わる肉倉君の熱が、じわじわと私の頬を蝕んでくる。当の本人は相変わらず柱の向こうを気にしていて、こちらの様子など眼中に無い。このまま気付かなければいいのに。

しかし、私の願いが叶う事はなかった。士傑生は遠くに移動したらしく、肉倉君は腕の力を緩めて私の方を見た。見てしまった。


「…………」
「見、ない、で」


真っ赤な顔をアルパカで隠しながらも肉倉君を見ると、私に負けないくらい頬が紅潮していた。ようやく自分のした事に気付いたようだ。これを機に、ちょっとは反省していただきたい。

ところが肉倉君は、反省するどころか、今度は私の手を勢いよく握った。


「えっ、何っ」
「出るぞ。このまま留まれば再び遭遇する事は明白」


さっきの今で声が上擦る私の返事を待たずに手を引っ張られて、私達はゲームセンターから出た。駅前に向かって歩く肉倉君は、まだ私の手を離さない。もしかしたら無意識なんじゃないかと思って、恥ずかしいのを我慢して、肉倉君の手の甲を撫でるように指を動かしてみると、強く握り返された。わざとだった。

物を食べている時に口元を拭かれるのは中学時代から慣れているし、前に頭を撫でられたのだって「子ども扱いされている」という理由でなんとか納得できた。さっき抱きしめられたのは、姿を隠すための行動だった事も想像できる。だけど、私を見て赤面した事や、今こうして繋いでいる手には、どんな理由を付ければいいのだろう。

とりあえず分かったのは、肉倉君も私も、お互いにこうして触れる事に嫌な気持ちがないという事。そして、未だ鳴り止まない心臓に、“肉倉君の友達”としての私は、まだ理由を付けられない事だった。


ところで肉倉君は、私がアルパカのぬいぐるみを抱えているせいで、通行人からそこそこ注目されている事に気付いているのだろうか。


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