拍手お礼文
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・Vanillaの悠と奏。
・少々改行多め。
「もしも今すぐ、ゆうの前から私が消えてしまう話をしよう」
奏は時々、妙なことを言う。
どうしてそんなことを思いついたのか聞いてもどうせ「別に、ただ何となく」としか答えないのはわかっている。
こういう時の彼女は、ほとんど俺に言ってほしい言葉というのが始めからきちんと決まっている。
それを俺がどれだけ早く当ててあげるか、ちょっとした遊び。
冬の夜は寒い。
二人で布団の中でくっついても、くっついた部分しか温かくない。
それでもこうして会話をしていれば、不思議と寒さが気にならない。
本当に不思議だ。
俺と奏という生き物は。
楽しそうに体を揺らし、両肘ついてこちらを見上げてくる彼女に、俺はいいよと提案を快諾してあげる。
もしも今すぐ、俺の前から奏が消えてしまう話をしよう。
「消えるっていうのは、奏が死んじゃうっていうこと?それともどこか遠いところに行ってしまう、とか?」
「さあ?どっちでもいいし。だってどちらも同じだし」
「まあ…そりゃそうだけど」
何となく眠れない夜は、二人でこうしていつまでも眠たくなるまで話をしてきた。
それが今もこうして続いているなんて、すごいと思う。
もう子供という歳でもないのにこうしてひっついているのもおかしな話だけど。
「ゆうは、泣いてくれる?」
「うん」
「そっか」
「泣くっていうか、しばらくの間は信じられないかもね。俺の前から奏が消えてしまったこと」
「そうなん?」
「だって生活のほとんど、一緒にいるじゃない」
「あーね。確かに」
二人揃ってないともうどうにも調子が上がらないような感覚が、最近はある。
もしかしたら、随分前からかもしれない。
「なあ、それで?」
「あー…、探すかも」
「見つからなかったら?」
「…諦めて、普通に暮らすよ。このまま仕事して、誰かと結婚して、家族になって。老いて死ぬと思う」
「うん」
「…怒っているの?」
今度は俺から奏を覗き込んでみれば、意外にも彼女は怒ってもいないし、落ち込んでもいなくて、ついでに泣いてもいなかった。
その代わり、笑っていた。
いたずらを思いついたような、そんな笑顔。
おもしろいことを教えてあげようか、そんなことを言いそうに。
「私は安心してるし。私が消えても、ゆうは幸せに生きてくれるんだと思うと、ほっとした」
「それなら、いいけど」
「私もゆうと同じかも。泣いて探して諦めて、普通に暮らすんだと思うし。そんな私をゆうはどう思う?」
「いいんじゃないかな。泣くより笑ってくれてる方が嬉しいしな」
「ありがと」
どうやら満足したらしい彼女は、にこりと笑って俺の肩に頭を乗せた。
もしも今すぐ、俺の前から奏が消えてしまう話は、これでおしまいらしい。
「でもな、今のはもしもの話だから、ゆうの普通の幸せっていうのは当分叶わないし。ゆうは私がいる方が幸せなんだから、消えてなんかやらない」
それだけ言って、彼女は枕に頭を落とした。
そろそろ眠たくなったんだろう。
敵わないなあ、と思う。
この子には一生、敵わないと思う。
「それはもちろん、奏もだよね?」
「さあ?」
「えー、なにそれ」
「じゃあ、指きりげんまんしよっか」
「何て?」
「いなくならない、って約束」
「うん。あ、でも奏が明日起きるの遅かったら置いていくからね、買い物」
「それひどいし!」
じゃあ、さっさと指きりして眠ってしまおう。
もしも、なんて話はおしまいにして。
ゆびきりげんまん。
夢の中でもどこでもいつまでも、二人が一緒でありますように!
End.
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