オペレーターの指導役

 界境防衛機関の中心たる任務は防衛である。才能ある若者が集まり、日々実力を研鑽し近界民の襲来に備えている。
 攻撃手や狙撃手といった直接近界民と戦う者がいれば、それを技術や知恵によって支えて戦う道を選ぶものもいる。
 戦闘員を情報により支援し、より確実な任務完遂へと導くオペレーターもまた、防衛の一角を担っているといえよう。


 オペレーターは入隊後、まず中央オペレーターとしてオペレーターの基礎を身に付ける。今日はその初教習の日だ。
 制服である指定のブレザーに身を包み、指定された時間にラウンジに集まれば、入隊式で案内をしていた嵐山隊と、一人の男性が現れた。

「オペレーターの皆には今日から通信室でのオペレーション教習を実施する。教習にあたり、担当されるボーダー職員を紹介する。柏木さんだ」

 嵐山に紹介され、男が一歩前に出る。

「通信室主任、柏木だ。入隊時に説明を受けたかと思うが、これからしばらくは俺の下で中央オペレーターとして基本的な技能を身に付けてもらうことになる。よろしく」

 学生の多いボーダーにしては珍しく、20代中程の青年が指導担当だと名乗る。制服を着用していないところから、戦闘部隊ではなく内務部門の所属だろうか。黒地の中央を走るオレンジゴールドのラインの入ったネクタイだけが入隊したばかりのオペレーター達と同じ色をしていた。
 柏木は教習の補佐に嵐山隊オペレーターの綾辻が就くとこと、それとまずこの場で話しておく重要事項を忘れずに覚えて欲しいと真剣な目でオペレーター達を見回し、ゆっくりと口を開く。

「通信室は情報戦の要だ。難しい場所にある訳じゃないが、施設内地図には記載されない場所になる。しっかり覚えるように」

言い終えた柏木は、にこりと笑って着いてくるように指示する。嵐山隊に見送られ、同じような造りの続く廊下を歩き、間違えないようにラウンジからの経路を記憶していく。

 ここだ、と案内された通信室は腰高のキャビネットで二部屋に分けられており、新人はあちらだと指示された方は空席が多く、もう一方は他の職員が資料を片手に駆け回っていた。何人かは新人に気付いてひらひらと手を振って歓迎している。
 新人オペレーター達が指定されたモニタ席に順に座れば、大きなモニタ前に柏木が立つ。

「これから基本的な設備の操作、モニタリングの方法、地形把握、隊員への提供情報の精査等、多くの事を身に付けてもらう。これらの情報は現場での隊員の行動に直結することを念頭に置いてしっかり学んで欲しい」

堅い口調は教師にも似ていて、興味津々と設備を眺めていた者たちの背筋が伸びる。

「どうか非戦闘員だから何もできないと思わないでほしい。戦闘員を支えるために、情報を的確に伝える仕事がこのオペレーターの仕事だ。情報支援は絶対に戦闘員の力になり、支えになる。チームのオペレーターを目指す者も、中央オペレーターになる者も、それだけは絶対に忘れないでほしい。戦い方は一つじゃないし、戦う人も一人じゃない」

力強く話すその様は本部長の挨拶にも似ていて、これから共に戦う仲間を叱咤激励していた。
 新人のこわばった様子に、口許を弛めて柏木は笑った。

「……だから、解らなかったら聞きにおいで。俺は殆ど毎日ここに居るから」




これが、オペレーターと通信室主任柏木将生との邂逅である。

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