願いの形

 概念礼装『平穏な昼下がり』こと苗字名前は不可解な点が多々ある。
 概念礼装でありながら魔力を持たないこと、魔術師ではないこと、そもそもの資質も何もない、ごく普通のありふれた学生がなぜか召喚されてしまったこと。
 それらの解析を行うために特異点調査の間に英霊召喚システムフェイトの解析とともに名前の検査を行っている。
 その検査を明日行うため、時間と場所の確認をしようとしていたロマンから彼女へと伝言を預かったのはつい先ほど。名前がレイシフト実証中、どこで何をしているのかを聞いてはいるものの、すぐにここにいる、というのがわからず、食堂を経由して彼女へ充てられた部屋へ向かった。
 入口に取り付けられたモニターに声をかければ、穏やかな声が返ってくる。
「名前さん、今、少しよろしいでしょうか」
「マシュ? どうぞ」
「すみません、ドクターから伝言を預かっていて」
「なるほど。何もないけど、よかったら入って」
 失礼します、と部屋に入ればそんな遠慮要らないのに、と笑い声が返ってくる。お茶くらいならあるから、と部屋に取り付けられたポットで名前はお茶を入れていた。
 手伝おうにもいいから座っていて、と返されては何もできず、言われるまま椅子に座る。テーブルを見ると糸の束と編みかけのものが置いてあった。
「ごめんね、緑茶だけど良かった?」
「いえ、お構いなく。それよりも名前さん、これは一体何ですか?」
「それ? ダ・ヴィンチちゃんが余りものだからって糸くれたから、ミサンガにしようと思って」
「ミサンガ、ですか?」
 ことり、と音を立ててマグカップが置かれる。机の隅に寄せられていた糸束の下から編みあがった1本のひもが出てくる。
「知らないかぁ。私の学校じゃ体育祭とかに合わせてみんなで作ってたんだ。お守りみたいなものって言ったらいいのかな? 切れたらいいことあるって」
「お守りですか」
「お遊びみたいな感じだけどね、うまくいきますようにって思いながら編むの」
「素敵ですね、気持ちの力は大事です」
 大事な人への思い、叶えたいものへの思いを糸に込めて編む。それが些細なものであっても気持ちが大事だから、と名前は照れながら指先にミサンガを絡めて遊ぶ。そうした後、名前は思いついたように糸束を手元に広げた。
「ねえマシュ、好きな色ってある?」
「好きな色、ですか?」
「マシュの分、作ってあげる。私にできることなんてちょこっとしかないからさ、これくらいさせて」
 ほら、好きな糸選んで、と促す彼女にマシュは首を振る。私なんかには結構ですと断れば名前は不満げにできることくらいさせて、と言葉を返す。どうしたものかと思案し、糸を彼女に返す。
「では私が名前さんのを作ります。交換しましょう!」
「え、私のはいらないよ。今編んでるのも、立香にあげようと思ってたのだし……」
「では、これは私から名前さんへの気持ちです。作ったら受け取ってもらえませんか?」
「えっと……じゃあ、一緒に作る?」
「はい!」