全てはここから始まってしまった

 もう幾度と繰り返した召喚儀式を執り行う。召喚サークルが激しい稲光に飲み込まれ、その光の向こうに人影が浮かぶ。
 サーヴァントの召喚に成功したことを示すその人影は、光が収まるとともにサークルから軽快に飛び出した。
「サーヴァント、バーサーカー。名前はんーそうね……名前って呼んで! 素敵なデイドリーム、みせてあげる!」
 パチンとウィンクを飛ばしながら笑う学生服姿の少女はそう言ってマスターに握手を求める。隣で召喚を見守っていた青髪の少年は深いため息をついた。
「……これはまた実に下らんサーヴァントを召喚したな、マスター?」
「やーね、私は、勇者名前ちゃん、華麗に見参!とか、そんな恥ずかしいこと言わないわよぉ?」
「メタ発言はやめろ、貴様そのイベントには来ていないだろう」
「見てたわ、あなたたちとっても楽しそうなんだもの!」
 青髪の少年、アンデルセンは少女にかまわれるのを鬱陶しそうに払い、こんなものか、と部屋から出ていく。その背を見送った藤丸は目の前の少女に問いかける。
「あなたは……」
「少年少女の楽しい夢、英雄譚からミステリヰ、学園ラブコメなんでも全部私のもの。私は『ライトノベル』。少年少女の思春期の夢を詰め込んで、ジョーカーみたいになんでもできちゃう。夢も、希望も、挫折も、絶望も、全部ぜーんぶ。ねえ、マスター? あなたはどんな話が好き?」
「ライトノベル?」
 ライトノベルって、あの。
 確認しようにも目の前の少女は藤丸に興味津々である。まじまじと自身と藤丸を見比べ、休むことなく口を開く。
「あぁ、マスターは学園ものが好きなのね、だから私はこんな姿! 学校でどんなことがしたいのかしら、ラブコメ? アクション? 魔術師だからミステリ……は安直ね、でも可愛い顔して意外と殺伐系とか?」
「えーっと……」
「……ミス・ライトノベル、とりあえずマスターの話を聞いてください」
「名前って呼んでくれなきゃやーよ、シールダー?」
「訂正します、名前さん。マスターが困り果てています」
「……あっちゃー……間違いなくダ・ヴィンチちゃんと同じタイプの子だ……」
 マシュが藤丸と名前の間に割り込み、どうにか名前のマシンガントークを止める。その様子を見ていたロマニの反応にはほかのスタッフも同意らしく同じような表情をしていた。
「ライトノベル……名前、まずはその姿・能力について確認させてくれる?」
「マスターならわかるでしょう。私は貴方で私なんだもの。これが貴方の私の印象、私を象る貴方の中の私がこの姿」
 もっと小さな子供や化け物の姿じゃなくって良かったと名前は笑う。姿がマスターによって異なるという話には覚えがある。
「ナーサリー・ライムと同じようなものかな……」
「あら、ナーサリー・ライムを知ってるの?」
「ちょっと前、特異点で会ったんだ」
「なら話は早い。私は彼女で彼女も私。誰かの作った誰かの夢の世界こそが私で私たち。だからこの姿も誰かの描いた夢。ほかの姿の私も俺も僕も君もいるってこと」
 屈託なく笑う姿は天真爛漫を体現している。ナーサリー・ライムが童話なら、名前はライトノベルにある、確かに個性的なキャラクターを有している。
「だからあなたが望むなら、真っ暗闇だって作ってあげるわ、マスター」