5LDK庭付き新築

玄関に上がる前にドアの前で靴の裏に付いた砂を落とす。つま先を地面に何度かぶつければ、パラパラと砂と一緒に芝が落ちた。
ただいま、と玄関先に荷物を降ろし、室内の様子を伺うも無反応。リビングからかすかに聞こえるチャントと歓声から、今日の試合のレビューをしているのだろう。邪魔にならないよう、リビングを通過して脱衣所で部屋着に着替えてついでに泥まみれのトレーニングウェアを洗濯機に放り込んだ。
そっとリビングに入り、彼女の様子を覗けばじっと画面を見つめていた。そうだ、今度のボーナスでテレビ買い換えよう。もう一回り大きくしよう。HDDレコーダーも増設しよう。きっと喜んでくれるだろうな。
ボーナスの使い道を決めつつ、冷蔵庫の中身を確認し、今日の飯を何にするか考える。バタンと音を立てた冷蔵庫に、彼女が振り返り頬を染めながらあわててこちらへ来た。
「ごめんなさい、私ったらつい……!」
「ん、いーよ。忙しいの?」
背中に回り台所からぐいぐいとリビングに押しやる彼女に苦笑をこぼしつつ、されるがままリビングに足を進める。賑やかな音を立てていたテレビは一時停止を表示していた。押されるままから、気づけば手を引かれてソファーに押し付けられる。しょうがないなと腰を下ろせば、少し距離を開けて彼女も腰を下ろした。もう少しこっち、と腰を引く。彼女の口からため息がこぼれた。
「疲れてるでしょう? 私がやるから、」
「じゃあ手伝う。それよりもほら、俺帰ってきたんだけど?」
「……おかえりなさい、苗字さん。」
「君も苗字さんなんだけどな?」
「〜〜〜っ!!」
熱でもあるんじゃないかと心配になるくらい顔を赤くした桂が無言でクッションをつかんで投げつけてきた。ごめんごめん、と謝れば知りませんと顔を背けた。
「ただいま、桂さん。」
「……おかえりなさい、名前さん。」
「ん、よし。」
いいこ、と抱きつけば離してと暴れだす桂がいとおしい。

5LDK庭付き新築の新婚夫婦

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