いつも四人だった。輝き溢れる榛と、凛々しく鋭い灰色と、優しく聡明な鳶色とは、生まれた頃から友達で、実際同じ産婦人科の病院で生まれたのもあって、本当に何の比喩も無く、自分達は四人でいつも一緒だった。

泊まるのはジェームズの家。遊ぶのはシリウスの家。勉強するのはリーマスの家。日に日に不良という文字がちらつき始めた彼等の素行に、うちの親は良い顔をして無かったから、四人一緒にうちで遊んだ記憶は、あんまり無い。だけど別の不良に絡まれてる所を助けてもらったり、苦手な科目を教えてもらって良い点を取れたりした時は、母さんは良くハミングしながら、甘いカスタードプディングを焼いて僕に持たせてくれた。みんなで食べなさいって。僕はちょっと子供っぽくて嫌だったけれど、みんなにはこれがまた大人気で、流石はピーターのママだよなって賞賛して貰えるのは、そんなに嫌じゃ無かった。

煙草を吸って、お酒を呑んで、こっそり大人なお店とかに潜り込んで。もちろん悪戯や冒険もした。一番記憶に残ってるのはシリウスのお父さんを何とかギャフンと言わせたくて、1ヶ月位尾行を重ねたことだろうか。何故かいっぱい子猫が居る店で、猫と一緒に床に転がってゴロニャンゴロニャン言ってたあの光景は、きっと生涯忘れはしないだろう(それが決定打だったみたいで、以来僕は一度たりともシリウスから彼の話を聴かなくなった)。今が退屈って訳じゃないけれど、兎に角あの頃が一番楽しかった。

「ホラ見ろ!だから俺の言う通り左に曲がっときゃ良かったんだよ!!」
「何さ!僕が必死にドリフトしたハンドルを君が無理矢理戻したから、むしろハンドルがもげちゃったんじゃないかあああ!!」
「アクセルが生きてたのが運のツキだよね…スピード出過ぎて死ぬかと思ったけど」

事の始まり、それは僕だった。彼等と友達だからっていい気になって、関係を広げようとしたのがいけなかったんだ。
結果何をやらかしたかも知れない奴らの保証人にされた途端に、相手は亡国。残された僕には請求書のキスの雨。きっとこのままバラバラにされて口じゃ言えない様な所に売り飛ばされるんだと絶望して、今まで一度も行った事の無い書店へ行って、一番上等で真っ白な便箋をどっさり買って、毎日毎日顔をぐしゃぐしゃにしながら、親へ知人へ仲間達へと遺書を書いていた。書ききれない感謝と後悔にまた泣いた。ぼたぼた紙面に落ちて来る涙から、何故かカスタードプディングの匂いがした気がする。

「…あーあ、ガソリンも空だし…仕方ない。兎に角今日の寝床を探そう、どっかのお坊ちゃまが癇癪起こさない程度のところならなお良し、ね」
「うるせえ!」
「ピーター、行くよー?」

さあ死ぬぞ、って日に彼等はいつもの様にやって来て、馬鹿だなピーターって言った。顔と頭と涙をぐしゃぐしゃにした僕を、大泣きしている子供をあやすみたいに頭を乱暴に撫でて。彼等は僕のために「普通の人生」を捨ててくれたのだ。

「うん、今行く」

強盗窃盗大盗賊。そう呼ばれて何年経つだろうか。目にした事はないけれど、もしかしたら僕達の所為で命を落とした人が居るのかも知れない。けれど僕にはそれを食い止める術はもう無いのだ。
いつも四人だった。輝き溢れる榛と、凛々しく鋭い灰色と、優しく聡明な鳶色とは、生まれた頃から友達で、実際同じ産婦人科の病院で生まれたのもあって、本当に何の比喩も無く、自分達は四人でいつも一緒だった。榛は僕は君で、君は僕だと言った。灰色は俺らを誰だと思ってると言った。鳶色は君が居ないともうあのプディングを貰えなくなるからねと言った。子供っぽくてあまり好きじゃ無かったカスタードプディング。けれどそれだけが僕の誇りだった。

四分の一の僕達だけど。四人でならば一になる。クリスマスはもうすぐそこで、乗り捨てた車の時計は11時を回ろうとしていた。




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