「クリスマス・イヴなのにね」

まだこの教会が白い壁と群青の屋根をしていて、周りも荒廃しておらず長閑な芝生に溢れて居た頃を思い出して呟くと、睨みもしたいが折角の食事を中断したくもないというどっちつかずの状態になり、結局はリリーの作って来たサンドイッチを頬張ったままじろりと彼女を睨むという、何とも間抜けな風体になったセブルスに、リリーは笑う。あの頃はまだ皆神様を信じて、この教会へと足繁く通っていた。彼の祖父が居た頃の話だけれど。

「…淋しく無いの?」

母に捨てられ、父方の祖父に預けられ、今までの人生全てを此処で育って来た彼は、あのろくでなしだった父が亡くなってからも、12時の鐘を鳴らすのを忘れない。誰も耳にしないその音色は然し、この一年まるで途絶える事は無かった。茹だる様な暑さの日も、滝の様に降る雨の日も、手が皹切れそうな雪の日も、彼の鐘は鳴らない事は無かったのだ。

「…鳴らさない訳には、いかない」

けれど一年の間でたった一度だけ、彼が鐘を鳴らさない日がある。かつてサンタクロースみたいな顔立ちと優しさをした、大好きだった祖父と一緒に、静かに蝋燭を付けた礼拝堂で聖者の生誕を祝っていたこの日だけは、彼は鐘を鳴らさない。

「此処は、僕と祖父の家だから」

リリーは温かい紅茶をカップに注いで思う。もしかしたらあの鐘は、彼の祖父が暗い夜道をちゃんと帰って来れる様にと、鳴らされて居るのかもしれない。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -