リリーは深呼吸した。すぅはぁすぅ。はぁの辺りでバキバキドスンという大きな音がしたのでノックはしなかった。錆びた取っ手に手を掛ける。カビの臭いがツンと鼻をつく。これはいつもだ。からりと乾いた空気。これもいつもだ。何処からか立ち込める粉塵。これもいつも──じゃない。

「セブルス?!」

慌てるが此処で暴れてはいけない。きっと今頃、床下の鼠達と挨拶を交わして居る彼と同じ様な目に遭うからだ。そうっと爪先立ちで廊下を優しく踏みながら、リリーは音のした方へと急ぐ。講堂から彼が良く居る控え室へと、続く扉の硝子戸は白っぽい光を放っている。ギギギ、なんて酷く鈍い音。それと一緒に見つけたのは暗い大きな、人一人は軽く放り込めそうな穴。人の気配がした。

「…大丈夫?」
「…こんな夜分に外を彷徨くのは、あまり感心しないぞ」

最初の頃はサイズがほとんど合わず、苦労していた神父服。何度か裾直しをしてやったから、今は大きな違和感も無い。
顔色が悪いのはきっと朝昼を抜いて仕事に没頭していた所為だろう。腕に引っ掛けたバスケットの中身を思い出して溜め息をついた。ほら、と差し出した手のひらを、少し遺憾そうに眉をしかめて掴んだ彼の手の冷たさに笑いが漏れる。



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