冥霊2(黄金と赤毛)
「どうして、あの偉大なニコラス・フラメルは、賢者の石なんて伝説みたいなモノを作りたがったのかしら」
凡人なら考え無い──否、いつもの彼女ならば考える筈も無い、酷く朧気で半透明な問い掛けを呟くハーマイオニーが、独り言だと思い込み答えずにいた僕を暫く見つめ、空気は止まって居る。此は僕に解答権があるのだとでも言いたげなその視線に気付いたのは、数秒後の事。
「え、僕?」
「分かったのならそうね」
これだからロンは、と溜め息をつかれそう言われると何だか悪い気がする。
だって今の僕は、トイレの為席を空けたハリーが帰って来る前に、次はどんな手を打とうかと目の前のチェス盤ばかりに気を取られていたのだから。
「世界平和の為?未来の為?
病気や災難から身を守る為?
死という概念から脱出する為?」
違う違うと首を振る。曰く、あまりにも具体的過ぎて胡散臭いのだそうだ。
昔、北の海にとても大きな魚が居た。
その魚はある時期になると姿を変え、鵬というとても大きな鳥になるらしい。
陽炎や風などの空気の揺らぎは、その鵬が息吹きをすると思われていた位、鵬にとって空は自分の下にある海だった。けれども蜩と小鳩はこれを笑った。どうしてあいつは高く孤独に飛ぶんだろう。
答えは簡単だ。小さい存在に大きな存在は計り知れない。理解を跳躍するから。
「…大昔の故事よ。
この前本で読んだの」
知りたいのだと感じた。普通に生きる人間にとってあまりにも大きな存在になってしまった彼を、彼女は知りたいのだ。
───そして、僕は何となく発見した。
「分かったかも」
「あら、ホント?」
好奇心と知識欲に駆られた瞳がキラリと光る。別にこれが赤丸大正解って訳じゃないだろうけれど、大方は当たってる。
きっととしか言えない。僕は所詮自分がこの小さなチェス盤の上でしか飛べない人間だと知っている、けれど知っているからこそそれを見つけられたのだろう。
「きっとさ、」
それは、
僕が次の一手を考えついた時の、
(そして僕はにまりと勝利を確信する)
あの衝撃にも、似ていた。
「誰かと一緒に居たい、じゃないの」
冥霊=楚の南にあった長寿の木。
(すがるように震える指に)
まさかのパート2。
思いの外調べたらツボった。
ハリーはこの後こてんぱんにやられます
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