兼人(鹿と猫)




「右手にはシリウス」
「左手にはリリー」
「どちらかを引き上げるには」
「どちらかを見捨てるしかない」

そうなったら、僕はどうするだろうね。
榛色は真剣に光りながらも笑っている。
もしもの話なんて自分でも分かっている癖に、彼は静かに怯えている様だ。

彼の中の幻影を脳内へと印刷する。
高貴な灰眼は、彼が愛する女性を助ける為の最大限の援助を惜しまないだろうし、その隣の緑光は、そんな事をされる位ならと自分で彼の手を振り払うだろう。

どちらも究極の負けず嫌いで、究極のお人好しだ。誰かと誰かの幸福の為に、自分の命を投げ出してしまえるほど優しくはない自分が言うのだから正確だ。

「その時は、」
「僕が貴様を突き落としてやる」

数刻の空白が姿を現したあと、彼はお手柔らかに頼むよと儚く笑ってみせた。



兼人=人を凌ぐ事、出しゃばる事。
(気付くのにはまだ間に合うから)



どちらの幸福も欲しい鹿。
すべての幸福が欲しい猫。





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