追悼(朝顔)
胸を押し潰されているのではないのかと錯覚してしまう程、悲しみは沈没した。
息が出来無かった。否、呼吸という生理的欲求を身体が理解出来無かったのだ。
嗚呼、壊れてしまう。自分でも十分に実感してしまったのが只の誤解では無い事を精神に叩き付けて来た。指先から感覚が無くなって、瞼は涙の暴走を止められず、半身をもぎ取られるとはこの様な心地なのだろうかとひたすらに感じた。
初めて膝を擦りむいた時。初めて姉に平手打ちされた時。初めて恋人に操を貫かれた時。痛みは感覚では無く、外界からの衝撃なのだと知った。
きっと神経というものはそれを伝達するのでは無く、その衝撃に驚愕し硬直するのだろう。生物学も医学もこれっぽちもかじった事の無い自分だけれど(それは医者や学者という存在がするので有り、消費者である自分が自ら実行する必要性など微塵も無いのだ)、それだけは何故だか確かな不確実性を持って断言出来た。
悲鳴を上げて天を、夜空を謳歌する。
あれ程までに自分は世界に必要なのだと胸を張って存在ごとそれを自慢していた彼女が、こんなにもあっさりと隔離されたのが愉快だった。それ見たことか!そんなにも完璧で居るからだ!!自分よりも優れた存在を何よりも否定する神の逆鱗に触れた愚か者は、骨まで業火に灼かれて死ぬがいい!!
その日は雨が降っていた。土砂降りの豪雨は遠慮無く頬を打ちつけて来た。
飛沫の隙間から見える星の光は雨と共に飛散して、肌に染みて来て痛かった。
「ペチュニア叔母さん?
どうして泣いているの?」
神が最後に彼女から奪った目に。
きっと私は死ぬまで呪われるのだ。
(いいからさっさと掃除しなさい、私はふと恐ろしくなって彼を怒鳴りつけた。)
追悼=死者の生前を偲んでその死を悲しむこと。
(補色は始まったばかり)
朝顔はペチュニア。
書いてて私だけが楽しいシリーズ。
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