結婚報告
「じゃ、清水送ってくから!」
逃げるように恋人の手を引っ張って、家を出る。
双方の家への結婚の挨拶は無事終えたはずなのに、吾郎の機嫌はよくない。
「たくっ、みんなでオモチャにしやがって……素直に息子の結婚喜べっつーの」
「そうか? みんな喜んでたと思うけど。うちの時と比べたら、和やかだったじゃん」
確かに、先日清水家に行った時は、初デートの時とはまた違う意味で9回二死満塁のマウンド以上のドキドキだった。
愛娘をかっさらおうとする男を前に無言な父と、それとは対照的にニコニコ顔で出迎えてくれた母に滅多に使わない敬語を使って頭を下げたこと(その一部始終を見ていた大河にからかわれたのは言うまでもない)と比べれば、今日の挨拶は終始和やかムードだった。
……和やかだったのは薫だけで、自分はもっぱらいじられ役だったが。
『至らない点だらけの息子ですが、どうぞよろしくお願いします』
『ファーストキスはいつ? プロポーズは? 子どもは?』
と、息子を放置して未来の嫁兼義姉相手に盛り上がる両親や弟妹の姿を思い出し、髪をくしゃくしゃと掻く。
「……」
そんな吾郎の子どもっぽさの抜けない仕草を、薫はとがめるわけでもなく見つめていた。
口では文句ばかり言っているが、本当に嫌がってる訳ではなく、どこか嬉しそうな顔を。
「まあまあ、これも家族サービスだと思えばいいじゃん」
「他人事みたいに言うなよ。もうすぐお前も、その一人なんだからよ」
「…そうだね」
どちらからともなく、手が繋がれる。
「…寄り道してもいいか?」
「うん」
二人は歩く。挨拶すべき最後の場所へ、人達の元へ――