24と24

ヴォルデモートが24歳のとき、不老の少女がいるという噂が彼の耳に入った。

不死を求める彼にとって寿命が無くなることは好ましい。
あらゆる手段を使って少女の情報を掻き集め、彼は様々なことを知り得た。

不老は、その力を持つ者が杖を向け念じれば、他者に伝染させることが可能なこと。
しかし少女の一族の中で不老の力を持つ者は、少女1人しか残っていないこと。
少女は一族により隠されていること。

一族の隠し場所から少女を見つけ出し杖を与えれば、自分は不老になれるかもしれないと、ヴォルデモートは考えた。

彼は僅か数か月で少女の隠し場所を暴いた。
少女は10人にも満たない一族の末裔たちが暮らす屋敷に隠されていた。
末裔たちは彼に訴えた。あの力は無くなるべきなのだ、と。
しかし彼は聞く耳も持たず、武力を持って抗い始めた彼らを1人残らず殺した。そして一族の長と見られる老婆から杖を奪った。

少女は地下の牢屋に隠されていた。
本当に幼い。5〜6歳といったところだろうか。
髪は伸び放題で、やせ細り、薄汚れていた。

「お前は不老か?」

少女は俯いていた顔を上げた。お世辞にも美しいとはいえない容姿だ。
ヴォルデモートの問いに、蚊の鳴くような声で「はい」と答えた。

「不老は伝染すことが出来ると聞いた。本当か?」
「ええ……杖があれば……」
「ここに杖がある」

少女は目を輝かせた。

「ああ、喜んでこの力を与えましょう。そうしたら、私を自由にしてくれますか?」
「いいだろう」

ヴォルデモートは少女に杖を与えた。
少女は幸せそうな表情で杖を掲げ、その感触を確かめてから、その先を牢の中から外にいるヴォルデモートへゆっくりと向けた。

「トム!!! 駄目!!!」

突然、地上に繋がる扉が大きな音を立てて開く。

懐かしくも忌まわしい名で呼ばれ、ヴォルデモートは声の方を睨む。
そこには恋人であるナナシが、息を切らせて立っていた。

彼女は少女の行動を見て目を見開くと、杖から彼を庇うように飛び込む。
刹那、ナナシの体に金色の閃光が降りかかった。

ナナシは一瞬ビクリと身を固くしたが、すぐに杖を構え少女を武装解除した。
少女の杖は牢の外へ弾かれヴォルデモートの足元に転がった。

「ナナシ……何のつもりだ!!」

協力関係にあった筈のナナシからの阻害にヴォルデモートは声を荒げる。しかし彼女は聞く耳を持たず、少女へ杖を向けて臨戦体勢を解かなかった。

「それは不老の力じゃない」

ナナシは少女から目を離さないままヴォルデモートに古びた本を差し出す。彼は苛立ちを抑えながらそれを受け取り、中を確認した。
どうやらアルバムのようだ。とある女性の成長記録のように見える。

「何だと言うんだ」
「日付を見て」

ヴォルデモートが勘付いたそのとき、少女が甲高く笑った。

「アハハハ、ハハ、フフフ。男、救われたねぇ」
「若返っているというのか……?」
「その通り」

アルバムの最初のページは老婆の写真だった。ページをめくるごとに若返っていくが、日付は過去から現在に近づいている。
最後の写真は目の前の少女の10歳程の姿に見えた。

「若返り続けるとどうなると思う?」

少女はにやにやと顔を歪ませながらナナシを指差す。

「あんた今いくつだい?」
「……24……」
「では、これから24回目の誕生日に、消える」

最後の言葉を聞くや否や、ヴォルデモートの杖が少女に向き、磔の呪いが唱えられた。少女は牢の中をのたうち回り息を荒げる。

「今すぐに解け」
「……ハァ、ハァッ……あたしには伝染すことはできるが解くことはできない……」
「では解く方法を言え」

少女はその問いに答えず、与えられた痛みに耐えるように体を震わせていた。地下牢に少女の呼吸音だけが響く。

ヴォルデモートの胸は焦燥感で埋め尽くされていた。
このままではナナシがあと24年で消える。それは彼にとって非常に短い時間に思えた。

「ずっと……この不幸を他人に味合わせてやりたいと願っていた……礼を言うよ……」

口を割るつもりは無いらしい。ヴォルデモートが開心術を試みようとしたそのとき、少女はどこからかナイフを取り出し自分の喉元を掻っ切った。
一族は少女へ命を絶つ手段を用意していたのだ。



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