気まぐれ王子A

放課後。
わたしは図書館の扉の前をうろうろと彷徨っていた。

昨日リドルに席をとっておいてと言われたのだが、のこのこと座っているのもなんというか間抜けというか、期待してるみたいな気がして。かといって行かないのも悪いし。
結果として扉の前で止まってしまったわけだ。

やはり見目麗しいリドルに会うのは精神が削られるし、試験勉強したいし……寮に戻ろうかと扉に背を向けると。

「何してるの」
「あっ、」

リドルがこちらに向かってくるところだった。
ほ、本当にいらっしゃった。

「席埋まってた?」

わたしの手を引いて図書館の中へと足を進める。
カッカと熱を放つわたしの手とリドルの手の温度差は相当なものだった。

「空いてるね。座って」

昨日と同じ席に誘導すると、先にわたしを座らせて、また真横に座る。

キスされそうになったあの瞬間がまざまざと思い起こされて、もう、この状況だけで蒸発しそうだった。

なのに。
髪に触れてくるもんだから。
おそらくわたしの体は数%、本当に蒸発しただろう。

なんで、数日前に初めて話したわたしなんかに、こんな。ここここ恋人みたいなことするの。

意味が……わからない……!

「あの、り、リドルくん」
「ん?」
「ひゃ!」

髪に触れていた手が耳をなぞる。
甘い刺激で漏れた声に自分が驚いた。

「ふふ。どうしたのナナシ」
「や、やめ、」

耳の内側を人差し指で優しく撫でられて肩がキュッと上がる。ゾクゾクと体が震えて、首から背中が粟立った。
必死に顔を逸らしながら、声を絞り出す。

「……どうしてこんなこと、……っ」
「……うーーん……」

親指が耳の裏側を沿う。

「構いたくなるんだよね、君って」

右肩にリドルの体が少し重なった。詰まった距離から彼の体温を感じて、微熱に侵されたかのようにくらくらする。

「ねぇ。そろそろ、こっち向いて? キスしたい」
「〜〜!!!」

リドルの甘い囁きに身を固めていると、痺れを切らした彼の両手が頬に伸びてきて、くいっとそちらへ顔を向かされた。

ほんとにほんとにするの?

ただからかってるだけでしょ、と疑う気持ちが渦巻いて、でもみるみる距離が詰まっていく。

「あ、待っ、」

遅くなってしまった制止の言葉は彼の唇で塞がれた。
押し付けるようなキス。
その柔らかさと、リドルの、石鹸のような清潔さが混ざった魅惑的な香りに包まれて、酔ってしまいそう。

ゆっくりと顔を離し、目を見開いたままフリーズしてしまっているわたしをまじまじと見て、リドルは笑みを深める。

と、またも唇を重ねてきた。
3回同じようなキスを繰り返して。
4回目に、そっと舌が唇を割ってきて、わたしは爆発しそうになった。

「ん、ぅう」

味わい尽くすように口内を愛撫され、ぴりぴりと背中に電流が走った。甘すぎる刺激に何も考えられない。リドルの舌がわたしの舌に絡まってきて、どうしようもなく受け入れる。

「……っ」

ようやく解放されたときには、もう、放心状態でとろんと瞼が重くなり目が潤んでいた。

「林檎みたいだ」

弾力を楽しむように、彼の両手がプニプニとわたしの頬を弄る。

この王子様はわたしをおもちゃにして楽しんでいる。
わたしがウブで男の子と話すのが下手っぴだから面白いんだ。

紳士的なイメージだったトム・リドルがただの意地悪な男の子に思えた瞬間だった。

黙ったまま不満気に眉を寄せてみても、そんなのはどこ吹く風といった顔で、今度は鼻の頭にキスを落としてくる。

耳までぶわーっと熱が駆け抜けた。

「次は、試験最終日に。ちゃんとここに座ってるんだよ?」

すいっと頬を撫で上げて、リドルは颯爽と去っていった。
それでもまだ熱は冷めない。
かっかと燃える顔を隠すように机に伏せる。ゴツ、と少し頭をぶつけてしまった。
そして我に帰る。

「ま、また、あうの……?」

試験の成績が悪かったらリドルのせいだ。



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