36と12*

「ちょっと可愛すぎない?」

部下から届けられた少女用の衣類に囲まれながら、ナナシは不満げに口を尖らせた。

確かにピンクや薄紫など淡い色のものばかりで、どれもこれもレースやリボンが施され全体的にヒラヒラしている。女の子らしさのど真ん中をいくデザインだ。
どうせアブラクサスの趣味だろうと予想しながら、ヴォルデモートは手元のグラスにウイスキーを注ぐ。

「わ……うわぁ……」

1番近くにあった淡い青のワンピースを纏ったナナシは、絶句しながら全身鏡の前で立ち尽くした。爽やかな色に騙されたが、着てみるとスカートのレースが段になっておりとんでもなくゴージャスな代物だったのだ。

「絶対アブラクサスよ、こんなの選んだの。ルシウスには妹が必要ね」

彼の趣味を押し付けられちゃ堪らない、と皮肉を言いながらワンピースを脱ぎ捨てたナナシは下着姿で他の服を物色する。その体は女性らしい柔らかさは薄くなり、子供らしい細いラインを描いていた。

ナナシは12歳にまで戻ってしまった。
身長が縮み、どんどん服が着れなくなっていく。

そんな彼女を見つめながら、ヴォルデモートはウイスキーのロックを揺らす。カランと氷がたてた涼しげな音に、ナナシは兎のように振り返った。

「わたしも一口」
「駄目だ。その体には毒だろう」
「む……少しくらい大丈夫!」

忠告も聞かず、ナナシは杖を振って自分のグラスを用意すると、同じものを飲み始める。

1時間後。
くて、と力無く自分の膝にもたれ込むナナシを見下ろして、ヴォルデモートは盛大な溜め息を吐いた。

「だから言ったろう」
「ちょっと酔っただけだもん。心配性のパパ」
「誰が……、おい」

ナナシは寝っ転がったままヴォルデモートの腹を擽り始める。細い指が弱いところに入り込んで、彼はこそばゆさに体を前に捩った。

「やめろ……っ」
「ふふ、ここ弱いよね」
「ナナシ……!」

調子に乗って服の下にまで手を滑らせてきた彼女を前屈みで抱えるように押さえつける。しかし腕は拘束できずに擽りは続くまま。
ヴォルデモートは仕返しをするように彼女のキャミソールを捲り、背中や横腹を直に擽った。

「ひゃっ!」
「度が過ぎたな。酔っ払いめ」
「や、あは、ヴォル、」

ナナシは体をくねらせ、擽りから避けるように彼の膝の上に仰向けになる。しかしそれは無防備な腹を見せつける羽目になった。

「ひゃは、やめ、」

手は上へ上へと昇っていく。
段々とその手つきは擽りから遠のく。欲を誘うようなものへと変わっていく。

「ん……ちょっと、」

ナナシはもう笑ってはいなかった。眉を寄せ、必死に声を抑え、善がる。
小さなナナシのその様子に、聖なるものを侵すかのような得難い感覚を覚え、ヴォルデモートの歯止めは利かなくなった。

「……っ」

ついに、手は彼女の胸に到達する。
彼の低い温度に触れられ、ナナシは全身をぞわりと震わせた。

「ほう……この齢でこんなにも感じやすかったのか」
「ちがう! くすぐったいだけ、っ」

細く長い指先に突起を転がされ、彼女の体がぴくんと跳ねる。
ナナシは慌ててヴォルデモートの腕を掴んだ。

「だ、だめ……」

小さな手にぎゅうっとしがみ付かれ、彼も流石に手を止める。

「もうこの体じゃ、満足させられない」

ナナシは伏し目がちに、とても寂しそうに呟いた。

その台詞にヴォルデモートの時が止まった。

確かにその体では、セックスは今まで通りとはいかないだろう。
こんなときまでナナシは自分の快楽に溺れず、ヴォルデモートのことを1番に考えているのだ。

なんて女だ。

ヴォルデモートは更に体を屈ませ、自分の膝の上に寝そべるナナシにキスを落とす。
何度も何度も。彼女の頭が真っ白になるように。

「ナナシ。何も考えるな……」

自分の快楽なんてどうでもいい。
ナナシだけ感じればいい……。

ヴォルデモートは彼女のキャミソールをめくり、胸を露わにする。
その小さな膨らみの上で、触れられて真ん中にぷくりと主張する淡い色の突起に、ヴォルデモートは堪らぬ愛おしさと燃え上がる欲望を感じた。
そっと、それに唇を寄せる。

「あ、ヴォル、」

胸の突起をちゅうっと吸われ、ナナシはその細い体を仰け反らせた。

「んぅ、あ、あなたが子供にそそるなんて……知らなかった、」
「違う。ナナシ。お前だから……」
「あっ! 喋っちゃ、だめ、」

敏感なところに唇を当てられたまま囁かれれば、反応してしまうのも当然だった。

更にヴォルデモートはナナシの下腹部へ手を伸ばす。そして彼女の下着に指をかけると、するりとそのまま脚を滑らせて脱がせた。
薄くなった陰毛を少し撫で、そのまま秘部へ指をなぞらせる。
ゆっくりと指を1本挿入すれば、彼女の肉壁がきゅうっとそれを締め付けた。

「きついな」
「当り前でしょ……」
「しかし……濡れている」
「っ、言わないで……」

幼くなったといえど、弱いところは同じだった。
彼女を知り尽くしていたヴォルデモートは、優しく、しかし確実にナナシを追い詰めた。

1本の指で慣らした後、本数を増やし、まばらな動きで攻める。
そして、ぐりっと腹の側にある弱いところを押してやれば、びくんと小さな体が跳ねた。暫くそこへ円を描くように擦ってやれば、彼女に絶頂がちらつき始める。

「ん、っ、んぅ、う」
「抑えるな……」
「あ!」

指を噛んで声を上げることを耐えていたナナシ。その両腕を掴み、頭の上で押さえつける。
ナナシは眉根を下げ、恥ずかしそうに抗議した。

「やなの、声が、っ、子供なんだもの、」
「……何も考えるなと言ったろう……」
「あぁ、お願い……っ」

ナナシの願いは聞き入れず、腕を拘束したまま。ヴォルデモートは指での素早いピストンを始めた。
彼女の頭を空っぽにするためだ。

膣内を掻き回すぐちゅぐちゅと厭らしい水音が部屋に響き渡る。

「ひぁ、やめ、あ、あぁ……っ!」

継続的なその快楽の波。達するまで弱めるつもりは無いといったその勢いに、ナナシはあっという間に溺れた。
ヴォルデモートは彼女の両腕が強張るのを感じたが、拘束は解かずに快楽を与え続ける。

「うぁ……、あ……!」

ものの十数秒で。脚をピンと張り、びくんと背中を仰け反らせて、ナナシは果てた。
ヴォルデモートの指を彼女の肉壁がきゅうきゅうと締め付ける。それに合わせるように緩やかなピストンを繰り返した後、彼は指を引き抜いた。

ぐったりと体の力が抜けたナナシを確認して、ヴォルデモートは腕の拘束を解き、その頭を撫でる。
途端、ナナシは彼の手を抓った。

「何をする」
「それはこっちの台詞。いやって言ったのに!」
「……。可愛いと、思ったが?」
「〜〜っ」

揶揄うような台詞に、もう1度ナナシはヴォルデモートの手を抓る。彼はそれを軽く引き剥がした。

本当にそう思ったのだから仕方ない。
と言っても、いつでもこの様な行為のときのナナシは堪らなく可愛いと思う。幼い声だとしても、それがナナシのものであると考えると、ヴォルデモートはむしろ高揚した。

真っ赤になって拗ねるその顔が、更に彼を掻き立てる。もう1度鳴かせてやろうかと思い立ったそのとき。

「……やっぱりわたしだけなんていや……」

仕返しだ、と言うように。
ナナシはヴォルデモートの下腹部に手を伸ばす。そしてズボンのファスナーを下ろして、彼の性器を取り出した。

少し硬くなり上を向き始めていたそれにナナシは唇を押し当てるようにキスをすると、懸命に愛撫を始める。

「おい……」

嗜めるように声を掛けてみるものの、止めはしない。嫌な気はせず、むしろその心地良さを受け入れている自分の欲への弱さに、ヴォルデモートは溜め息を吐いた。

小さな舌が自身を這い、小さな唇が自身を食べるように吸い付き、小さな手が自身を擦る。その昔より拙いながらも擽ったい快楽に身震いする。

理性が壊されていく。

「ん、ぅ……」
「……は…….っ、……」

ヴォルデモートの性器が充分に硬くなり、先走った液がその先を湿らせていることを確認すると、ナナシはソファに掛ける彼の上に膝立ちになった。そして自らの秘部に彼の性器の先が当たるように腰を降ろす。
ぬるりと彼女の肉が自身を湿らせる感覚に、ヴォルデモートは焦った。

このままでは彼女を侵し、自分の欲望に走ってしまいそうだ。

ナナシの腰を掴み、それ以上入らないように止める。

「ナナシ、煽るな」
「大丈夫。きて……?」

ちゅ、と音を立ててナナシは彼の唇にキスをする。
またもヴォルデモートの理性はぐらりと揺れる。

「もうすぐ入らなくなっちゃう。今のうちに、あなたを感じたいの」

ちゅ、ちゅ、と何度も自分の唇に押し付けられる柔らかな熱。

ああ、無理だ。抑えられない。

ヴォルデモートは応えるようにキスを返す。それに、ナナシは嬉しそうに笑んだ。

しかしこの体勢のままでは、あまりにも深く入り込んでしまう。ヴォルデモートはナナシをソファへ仰向けに横にさせ、その上に覆い被さった。

「辛くなったら、言え」
「うん」

そして、ゆっくりと。
彼女の中に自分を捩じ込んでいく。

ナナシは大きな圧迫感に、ヴォルデモートは強い締め付けに、それぞれ顔を歪めた。

「……んぅ、」
「っ、」
「いつもより、っ、大きくさせてない?」
「お前が小さくなったんだ……っ」
「……そうね、」

もうそれ以上、戻るな。

悲痛な言葉を呑み込んで、ヴォルデモートは快楽に耐えた。

「動くぞ……」
「うん、」

彼女の体を気遣った緩やかな出し入れ。快楽を求める動きでは無いが、それだけで肉壁が押し拡げられ、しかしヴォルデモートの肉棒に絡みつく。
いつもより密着していて、繋がっている実感。

「はぁっ、あぁ……」
「ナナシ……」
「ヴォルデモート……っ」

あまりにも密接な繋がり方に、2人は共に限界が押し寄せてくるのを感じた。
大きな快楽を怖がるかのように自分の体にぎゅうっとしがみついてくるナナシが、彼は愛しくて堪らない。しかしそうやって体が近付くほど、深く入り込んでしまう。
最も奥に到達し、そこを何度か上下に擦れば、ナナシはより一層ヴォルデモートを締め付けた。

ヴォルデモートは自身に迫り来るものを感じ、性器を引き抜こうとした。しかしナナシが抱き着いているので完全に離れることができない。

「ナナシ……離れろ……っ」
「いいの、このまま、」
「、何を…………うっ……!」

追い詰めるようにナナシが腰を揺らしたのを決め手に、限界だったヴォルデモートはナナシの中で果てた。

久しぶりのセックスに、彼は大量の欲を吐き出す。
小さな体を想って、ナナシが12歳に戻ってからの暫く、していなかったのだ。

ヴォルデモートが自分に注ぎ込むのを十分に堪能した後、ナナシは彼にしがみついていた手を離した。
それに続いて彼が性器を引き抜くと、こぽりと音を立てて収まりきらなかった精液が出てくる。

「……はぁ……そんな小さな体で妊娠でもしたら、どうするつもりだ……?」

荒い息を整えながら、ヴォルデモートは彼女を抱き起こし、膝の上に乗せた。そして指で丁寧に彼女の中から自分の液を掻き出す。

彼の台詞に、ナナシは困ったような顔で微笑んだ。

「もう、月経は来なくなったのよ」

ヴォルデモートの動きが止まる。
その意味を理解するのに時間が掛かった。いや、理解しているのに抗おうとしたのだ。

もう、ナナシと何も残すことはできない。

ヴォルデモートは元々子供を作ろうとなんて思ったこともなく、むしろ必要ないと口にしたことがあった。それを知っていたナナシが避妊薬を飲むのを勿論止めることもしなかった。

なのに今、大きな虚しさに包まれている。

どうにか胸に空いた大きな穴を埋めたくて、ヴォルデモートは腕の中のナナシを抱き寄せ、その首筋に顔をうずめた。
ナナシは擽ったそうに体を捩ったが、彼は離れることを許さず、更に力強く彼女を引き寄せる。

「……どうしたの。帝王様も、甘えたくなるの?」
「五月蝿い……」
「ふふ」

1番辛いのはお前なのに、どうして笑うことができる?
どうしていつも、私のことを優先できる?

ナナシは子供が欲しかっただろうか。
1度も聞いたことがなかった。
全てを受け入れてくれる彼女に甘えて、我が道を思うままに進んでいた。

呪いを解くことを諦めはしない。
しかしこれから先は、ナナシを尊重しよう。

そう、心に決め。
ヴォルデモートは腕の中の愛しい温もりを身に染み込ませるように、ナナシを抱き締めていた。



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