Merry Christmas &*
ホグワーツが雪で覆われる12月。
寒さでぴんと張り詰めた廊下を歩く。
次の授業まであと5分だ。
はぁ、と息を吹きかけて、かじかんだ手を温めながら、わたしは足を速めた。
教室に入れば浮足立つ生徒たちで賑わっていた。
南国に旅行に行くんだ――プレゼントはもう決まってる――やっぱり七面鳥は欠かせないわよね!
また同じような話をしているのかと呆れていると、わたしに気づいたキャシー(1番の仲良し)がここよ、と手を振った。
「皆、授業のことなんかこれっぽっちも考えちゃいないわ」
そう言う彼女も同じだろう。
あと1週間でクリスマス休暇がやってくる。
ホグワーツはその話題で持ちきりだった。
実家に戻る人が大半で、ホグワーツの外で予定している家族や友人との楽しみなイベントを語り合っていた。
わたしはというと、孤児院の出だ。
1年生のときはマダムに会いたくなって帰ったけど(トムを誘ったらとても嫌な顔をされたのを覚えてる)、戻ったところで他に楽しみもないし、荷物をまとめるのも面倒だし、2年生からはホグワーツで過ごしている。
だから、わたしにとって周りほどクリスマスは特別なイベントではなかった。
でもホグワーツの素敵な飾りつけやご馳走があるし、トムがいるから1人じゃないし、どちらかというと好き。
しかし今年のわたしは違った。
クリスマスが特別で、悩ましかった。
トムと恋人になって初めてのクリスマスなのだ。
プ レ ゼ ン ト ど う し よ う。
おまけにトムの誕生日は12月31日。
2つも考えなければならない。
なんせ、わたしは貧しかった。
学校から援助を受けて学校に通ってるもんだから他の生徒より贅沢はできないし、そんなにものを買える余裕はなかった。
トムに喜んでもらいたい。でもお金が、うーん。まず何をあげるかも決めてないし――。
なんだかんだわたしも頭の大半をクリスマス休暇に占め、気づけば授業は終わっていた。
「1つは手作りすればいいじゃない」
うんうん唸るわたしの事情を聞くと、キャシーが提案してくれる。
確かに材料費なら既製品より安く済みそうだ。
早速わたしは図書館に赴き、トムが使ってくれそうで、わたしでも作れそうなものを探した。こっちは時間もかかるし誕生日にしよう。
問題は期限が近いクリスマス。
困り果てたわたしは、結果としてダンブルドアのところを訪ねた。
わたしは彼を頼りにしている。
ダンブルドアはトムのときと同じように、わたしがホグワーツに招待されたときも孤児院に来て直接説明してくれた。そしてトムの傍にいてほしい、という話をされたのは本人には秘密だ。
トムはダンブルドアが苦手だが、わたしはお父さんってこんな感じなのかなと思ってしまって、結構好きなのだ。
「ふむ。ちょうどよい」
半月形の眼鏡の奥で、瞳がきらっと光る。
「クリスマスカードの宛名書きと封を手伝ってくれるものを探しておった」
ダンブルドアのウインクにわたしは祈るように手を組んでお礼を言った。
それから毎晩ダンブルドアの部屋に通い、クリスマスカードのアルバイトをこなした。
トムに怪しまれるかと思ったが、彼も彼でスラグホーン先生のところへ行くのに忙しくしているようで、特に詮索されることはなかった。
アルバイトの後は夜更かしして手作りのプレゼントと格闘。
ついつい授業でまどろんでしまう日々が続いて。
やっとというか、あっという間というか、クリスマス休暇が訪れた。
初日は、授業も予定も何も無い――最高! と二度寝を繰り返し、四度寝を終えたところでようやくベッドから這い出た。
部屋はしーんとしている。
同室の子たちは皆、家に戻ったのだ。
なんだか無性に寂しくなってトムのところへ行こうとして、思い留まり、クリスマスプレゼントのラッピングを始めた。それを終えると、誕生日用の手作りのプレゼントに取り掛かった。
ディナーの時間になってやっと女子部屋から姿を現したわたしを見て、トムは呆れた顔をした。
そして、クリスマスを迎えた早朝。
わたしはトムの部屋へと足を忍ばせている。
トムと同室の人たちも全員家に帰ったので、彼1人の筈だ。
物音を立てずにドアを開けると、5つあるベッドが1つだけ盛り上がっている。4つは綺麗に整頓されて真っ平だった。昨日、四度寝した後の自分の姿と重なる。
やっぱりわたしたちは寂しいもの同士だね。
プレゼントをどこに置こうかと部屋を見回す。トムが靴下なんてぶら下げてるわけなかった。
枕元に置こう。
そろそろとトムのベッドに近寄って、そうっと腕を伸ばすと、トムの寝顔に目が留まった。
……綺麗。
数秒見惚れてしまって、だめだめ触ったら起きちゃう、と邪念を振り払うように目を瞑る。
目を開けば、目が合った。
「きゃあああ」
手首を掴まれ、そのままずるずると布団の中へ引き摺りこまれる。
「ト! トム、」
「クリスマスプレゼントが届いているようだな」
起きてたのか、この性悪め!
背中から抱きしめられるようなかたちで、わたしはすっぽりとトムの中に納まった。
彼の体温であたためられたそこは、わたしの冷えた体にじんわりと効いて、とても心地がよかった。
後頭部にキスが落とされるのを感じて、きゅんと胸が疼く。
暴れることなく彼のぬくもりを味わっていると。
するするとネグリジェの中に手が忍び込んできた。
「ばか、今、朝だから!」
「誰が馬鹿だって?」
「う……」
少し声を凄ませて、でも手の動きは止めない。
わたしの胸をやわやわと揉みしだく。
「朝にセックスしちゃいけないなんて規則は無い」
寝起きのせいか少し掠れた声は、とてもセクシーだった。
ふいに胸の突起が摘ままれ変な声が出てしまい、両手で口を塞ぐ。
トムはわたしの肩越しで満足そうに「ふ」と笑うと、手を下降させた。しばらく太腿を円を描くように厭らしく撫で、そして、パンティーに指を引っ掛けた。
「だ、だめ!」
その手をガシッと掴み、180度首を回してトムと向き合う。
あぶない、ほだされるところだった。
彼は唇を一文字に結び、不機嫌そうにこちらを見た。
「わたしはプレゼントじゃなくて、サンタクロースなんだから」
手首を掴まれた拍子に床に落としてしまったプレゼントを拾い上げ、彼に差し出す。
「メリークリスマス、トム」
トムは不機嫌な表情を崩さず起き上がると、わたしからプレゼントを受け取った。
丁寧に巻いたリボンを解いて、勿体ぶらずに箱を開ける。
彼の瞳が僅かに見開かれた。
おそらく、思っていたよりもかなり背伸びしたものだったのだろう。
中身は羽ペン。
黒く美しい羽に、軸は銀で彫刻のような美しいデコレーションが施されている。
箱にはインクやペン立てなども備わり、蓋の裏には線の細さが異なった5つのペン先が刺さっていた。
「ナナシ。これ、どうしたんだ?」
「ふふ」
「どうやって……」
「ひみつ!」
これ以上は野暮だと思ったんだろう。
トムは、暫くまじまじとプレゼントを眺めると、ふっと表情を柔らかくした。
「ありがとう」
ホットレモネードが流し込まれたように、ぽかぽかと胸が温かくなった。
喜んでくれたんだよね。
内心気に入らなかったらどうしようと、どきどきだったのだ。
トムは隣の机にそっとプレゼントを置くと、わたしに向き合う。
「こそこそしていると思ったら、僕の為だったのか」
やっぱりバレてた。
肯定の意を込めて微笑むと、トムはわたしを抱き締める。
よく考えればこんな風に身を寄せ合うのは久しぶり。愛おしさが溢れて、わたしもトムの背中に腕を回した。
「ナナシ」
暫く抱きしめ合っていると、名前を呼ばれて顔を上げる。
すると、ちゅ、と唇を塞がれた。
トムらしくない可愛いキスに不意を突かれて、顔が熱くなる。
もう1回。更にもう1回。
降り注ぐキスに目を瞑る。
ちょっと待って。
いつの間にか、お尻を撫でられている。
「と、とむ?」
「ちょうど、サンタクロースは僕の恋人だったからね」
慌てて腕を掴んで止めると、トムは少し寂しそうに眉を寄せた。
な、なにその顔……ずるい……!
初めて見る、演技がかった表情にわたしはまんまと胸が痛んだ。
真っ直ぐに瞳を覗き込まれ、目が離せない。
「そんなに僕とセックスするのが嫌?」
囁くような色のある声に、きゅうっと下腹部が疼いた。
「……嫌じゃ、ない、けど……」
「じゃあ好きなんだ」
「す! すすすすきって……ひゃ、」
耳を咥えられ、肩に力が入る。
「――そうだろ?」
誘うような吐息を耳の中に吹かれて、ぞくぞくと背中に電流が走った。
お尻を撫でていた手がそのままパンティーをずらす。
わたしは耳への刺激で力が入らないながらも、彼を必死に止める。
「何が嫌なんだ?」
まだ抗うか、とムッとした声だ。
「朝から汗かくし……」
「シャワーを浴びればいい」
「……あと……」
「あと?」
言おうか言わまいか。
でも言わないとまた論破されてしまう。
トムがこちらを訝しげに見るので、下を向いて目を反らして。
思い切って理由を打ち明けた。
「夜かなって思って……可愛い下着があるの……着けてない……」
かーっと顔どころか、全身が熱くなる。
ああ、やっぱり言わなきゃよかった!
トムのプレゼントを買った余りのお金で、下着を新調したのだ。
白地に金の糸で花々の刺繍が施されていて、クリスマスらしくて可愛らしい。
せっかくだから、それを見て欲しい。
ちらっとトムの方を見れば、瞬きもせずにこちらを見ていた。
「トム?」
返答が無いのも恥ずかしさを助長した。
呆れてしまったのだろうか。
夜の準備なんて、はしたないと思われただろうか。
しかしそれは杞憂だった。
次の瞬間、わたしはトムに押し倒されていた。
「や、ちょ、聞いてた?!」
「夜は夜ですればいい」
あっけなくパンティーは脱がされて、ベッドの下に落とされる。
閉じようとした脚を腕で押さえつけて、トムは入り口の傍に手を当てた。
「もう、あっ、!」
指先が肉芽を擦り、高い声で鳴いてしまう。
「さっきの台詞……狙わずに言ったのか?」
狙ってるわけない! と言いたいのに答えられなかった。
口を開ければ途端に喘いでしまいそうなのだ。
くちくちとトムの細長い指の腹に肉芽をいじられ続けて、わたしはあっという間に抵抗力を失い快感に悶えていた。
そんなわたしを一瞥すると、トムは秘部に顔を寄せ、ちゅうと音を立てて吸い始める。
痺れるような刺激に体がびくんと反った。
両手でトムの頭を離そうと試みるが、ただ彼の滑らかな黒い髪を撫でているだけだ。力が入らない。
「やぁ、あん、」
彼の舌が内部を味わうかのように割れ目から侵入してきて、そのぬるりとした感覚に、ついに声が抑えきれなくなった。
舌で舐めたり突つかれたかと思えば、唇で吸われて、を繰り返されて。
しゃぶりつくような愛撫が耐えられなくて、何かに縋りつきたくなって、くしゃりとトムの髪を乱す。
「ふ、ぁあ、……あ!」
まもなくして、わたしは1人で達してしまった。
ぼうっと天井を見ながら余韻に溺れていると、顔に影が落ちる。
トムが起き上がってわたしの顔を覗き込んだのだ。
「ナナシ。そそる、その顔」
秘部をトムの固くなったペニスがなぞったのを感じて、ぴくりと体が跳ねた。
あんなに抵抗していたのに、わたしの中はもう、彼が欲しくて欲しくてうずうずとしている。
トムは勿体ぶって、ごく浅いところをくちゅくちゅといたぶった。
それだけでも感じてしまって、小さく喘げば、トムは困ったように笑う。
「ああ、焦らしてやろうかと思ったんだけど」
「我慢できないな……」
トムの腰がぐんと沈んで、硬く反った彼が一気に中へと侵入してきた。
「はっぁ……トムぅ……」
「ナナシ……きつい……」
「だって、ん、こんなすぐ、奥、ぁ」
まるで膣の腹の側を抉るように、熱い肉棒が内部を侵す。
暫く、そんなねちっこい出し入れが繰り返されて、脳みそがとろけてしまいそうだった。
トムが動くたび、ギシ、と鳴くベッドの声が、わたしたちが今行っている行為を周りに主張しているかのようで落ち着かない。
しかしわたしの心情虚しく、トムがベッドへ下半身を押し付けるように体重をかければ、ベッドは一際大きい声を出した。
お腹の辺りからお互いの汗ばんだ肌がくっついて、更に奥へと彼の肉棒が押し込まれる。
ぐわんぐわんと脳が痺れ始めた。
「なんか、ぁ、だめ、く、る」
「ナナシ、」
「トム、トムも」
彼の首に腕を回して、引き寄せる。
「一緒に」
は、と息を吐くように笑って、トムはわたしに深いキスを落とした。
口内への浸食と、子宮に擦りつけるような激しい腰の動きに、ついに頭の中は真っ白になった。
あまりの快感の大きさに、体が浮いているのかとさえ思った。
唇が離れ、でも動けば触れてしまうような距離で、トムは「う」と零す。
わたしの痙攣に刺激され、トムのものは跳ね、びゅるっと吐き出された液で内部が充たされた。その熱に震える。
お互い大きく肩を揺らすほどの、それほどの絶頂だった。
暫く抱きしめ合ったまま、繋がったまま、息を整える。
ああもう結局、トムのしたいがままになった。
恨めし気に彼を睨んでみるけれど、髪が乱れ、大きな快感にいつもより赤らんだ頬と潤んだ瞳が、わたしの胸を高鳴らせただけだった。
ずる、と引き抜かれる感覚に身を固くする。
彼の体が浮かぶのを感じて、わたしはそっと首に回した腕を離した。
体が離れた途端、冬のぴんと張った空気に包まれて、もの寂しい。
しかしトムは乱れたズボンのポケットから何かを取り出すと、すぐにまたわたしの体に身を寄せた。
「ひゃ」
首に手を回されると、冷たい何かがデコルテに触れ、驚いて声を上げる。
何かと思って手を持ってくれば、細い鎖が首に回っているようだ。
「ネックレス……?」
まさか、トムも、わたしに。
ぺたぺたと自分の首を触って確かめるわたしが可笑しかったのだろう。
トムはくつくつ笑って。
そして、わたしのおでこに唇を押し付けるようにキスをした。
「メリークリスマス、ナナシ」
(Happy Birthday!につづく)
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