肩幅のはなし(櫂アイ)
2013/01/31 17:16

黒地のジャケットの集団の中に青地の制服は大層目立つらしい。門の前に立っているだけでじろじろと目を向けてくる。しかしそれを選んだのは櫂自身だったので文句などなかったし、アイチの傍には櫂がいると認識させるには都合がよかった。
「櫂くん、お待たせしてごめんね」
「いいや、俺が勝手に早く来ただけだ」
息を荒くして見上げるアイチをどうして責めることができようか。公衆の面前でなければ攻めてしまうかもしれないけれど、と櫂はアイチの頭を撫でる。
アイチは高校生になって身長が伸びた。もちろん成長期の櫂だって伸びているのだから頭一つ分はまだ櫂のほうが大きい。それでいいと櫂は思う。まだ、アイチの上に居たいのだ。
「さ、カードキャピタルに行こう」
背が伸びた分華奢になったアイチの身体。肩幅も狭い。男らしい要素は容姿にない。同性でも恋に落ちてしまうだろう。櫂のように。
「どうしたらもっと大きくなれるかな。テツさんぐらいとは言わないから、櫂くんぐらいにはなりたい」
これ以上成長してしまったら櫂の姿でアイチを隠すことができない。そうなればアイチの魅力を誰もがしってしまう。櫂のアイチでなくなってしまう。
違う制服をアイチが着たときから櫂の胸騒ぎは止まない。
「同い年のナオキくんも櫂くんぐらい背が高いんだよ。いいなあ」
知らぬ人間の名前をアイチが言った。新しい環境に慣れたのはアイチにとって幸いだろう。だが櫂にはそうはいかない。アイチの居場所は櫂のそばであるべきだ。だが恋人でもない存在が口出しをすることはできない。だから櫂ができるのはアイチの頭を撫でるだけだ。
「このままでいいんじゃないか」
本当は頬や首筋に手を伸ばしたい。口付けをしたい。あの幼い顔の歪む様を見たい。
このままでいい。小さなアイチのままでいい。そのときがくるまで櫂はアイチを隠さなくてはいけないのだ。



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