宿儺は母に焦がれている/呪術
「宿儺」
呼ばう声が好きだった。
「宿儺、」
撫でる手が好きだった。
「すくな」
柔い微笑みが好きだった。
「ーーー」
全て、そう、存在全てを愛していた。
今でも夢に見る。陽だまりの中で母が己の頭を撫でている。生まれて此の方箸より重いものなど持ったことがないような、そんな白魚の手。すくな、すくな、わたしのかわいい子。唄うように囁いて、額を合わせる。両の手が己の四つ腕をなぞり、頬をなぞり、四つ目をなぞる。
「あなたはわたしの宝です」
そう言って背に回された手は、なんという脆さだろう。風が吹けば忽ち儚く消えゆくのではないか。そんなふうに思って、まだ幼かった己の四つ腕で懸命に衣を掴む。ははうえ、ははうえ、どこにも行かないで。ええ、ええ、どこにも行きませんとも。あなたを置いてなど、どこにもーー
はっと目を開けた先にあの手弱女はいない。