カインとアベルと三角関係/SCP


永い時を生きた。女性との関わりも幾らかあった。しかし恋、に落ちたのは初めてかもしれないと思った。
花の似合う人だった。私には手の届かない存在と言われているようで、美しいと思うのに、愛おしいと思うのに、ぐちゃぐちゃにしてやりたいと思う自分を自覚していた。
想いを告げた私に、彼女は静かにかぶりを振った。眉を下げて、困ったように。

「ごめんなさい。想い人がいるの」
「知っています」

はっと息を飲む音が響いた。

「彼は愛にも性にも無関心だ。君のことだって愛してはいませんよ」
「それでも」

微笑んだ。美しい笑みだった。遥か昔、"こう"なってしまう前、私たち二人に向けられた母のそれを思い出した。無償だと思った。無性に泣きたくなった。際限のない、いっそ恐ろしいほどに。

「それでも私はアベルを愛しているわ」

狡い、零れかけた言葉を飲み下す。本当に狡いのは自分だと、疾うに知っていた。

美しい私の弟-アベル-……お前は神のみならず、愛しい人の寵愛すら奪っていくのだね」

漏れたのは自嘲。全て自業自得、己が悪いと知っている。
項垂れる私の元へ収容違反の警告メールが届いた。「SCP-076-2が収容違反」嗚呼、お前は今夜も暴れるのか。私はまた嘘をついた。彼は愛にも性にも無関心だが、愛しい彼女だけは、決して傷付けない。それまでに垣間見た報告書からは、その事実が如実に読み取れた。
今夜はーー今夜も眠れそうにない。


SCP-073-"カイン"
著者-Kain Pathos Crow
http://www.scp-wiki.net/scp-073
SCP-076-"アベル"
著者-Kain Pathos Crow
http://www.scp-wiki.net/scp-076

CC BY-SA 3.0

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