はじめてルッチにチョコを渡す同僚の話/OP


呆れられてしまうかしら、と思った。甘い香りが充満する部屋の中、かわいらしくラッピングを施した箱を手に取る。本当に長いこと共に過ごしてきたが、こんなことをするのははじめてだった。この街に来てからちょっと、いやだいぶ、浮かれているのかもしれない。毒されている。
職長の人気は凄まじい。老若男女問わずの人気っぷりだ。特にあの三人は女性ファンが大勢いる。こんなイベント時にはそれはもう数え切れないほどたくさん貰うだろう。口にするかは別として。だから、入った途端顔を顰めたのは、予想の範疇だ。大方逃がしきれずあちこちに染み付いてしまった香りが鼻についたのだろう。能力故に嗅覚の優れた人だから。そして思ったに違いない。こんなイベント事に浮かれるやつだったとはな、と。
はい、と手渡す。彼が口を開く前に、予防線。

「いらないなら捨てていいから」
「誰がそんなことを言った?」

思わぬ即答に目をぱちくり。びりびりと破かれる包装。粗雑だなんて思っている間に箱は開けられる。手作りチョコレート。市販のチョコを溶かして固めただけの、簡単なものを幾つか詰めただけ。正直市販のものの方が美味しかろう。けれども彼はそのうちハート型のものを摘み、ぱくりとひとくち。

「……まあ、悪くねェ」

来月は楽しみにしてろよ。耳許で囁かれた言葉。横顔はどことなく嬉しそうに見えて、これはもしかして期待してもいいんだろうか。

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