"L"とLの話/死帳
貴方がこれまでどんな思いで、どんな覚悟を背負って、生きてきたのか。誰も知らない。私だって全ては知らない。計り知れないほど大きなものがその両肩には乗っかっていて、とても私なんかじゃ共有もできないんだろう。悔しいし悲しいし、どうして貴方がって思わない夜はない。世界は無責任過ぎる。
「どうして貴女が泣くんですか」
「貴方が泣かないから」
三文小説で使い古されたような言葉だった。けれども私が泣くのは、集約してしまえばただそれだけ。
困ったように私の目元をなぞる指先。美しい手。貴方はこんなにも魅力的だ。
自由奔放に見えてその実世界というあまりに大きすぎる籠の中へ閉じ込められている。解放してあげたい。『世界』を超えた世界を教えてあげたい。羽ばたく様をこの目で見たい。
「ねえ、一緒に逃げよう?」
貴方となら、どこへだって。
けれど貴方は私の手を拒む。これは私にしかできないことです。知っていた。貴方以外の誰も"L"には成り得ない。代わりなんていない。でもそれって当たり前のことで。誰だって代わりなんてものは存在しない。"L"の代わりもLの代わりもないのに。
貴方はそれでも"L"を選ぶ。
「悲しいよ」
私じゃ貴方をすくえない。