負けず嫌いな彼が死を選ぶ時/死帳(L)
「死んでしまいたくて」
ふと呟くと、彼はただ一言、そうですか、と。
「なんだかね、なんだろうね、よく分かんないんだけど」
「分からないんですか」
「うん。分かんないの。分かんないんだけど、ああ死にたいなあって。時々、思うんだ」
彼は心底不思議そうに私の顔を見る。だから私も彼の瞳を見詰める。彼の目が好きだ。真っ直ぐに、貪欲に、全てを見通そうとしているような、そんな目。
「Lはないの?そういう時。死にたいなあって思うこと」
「そういう時、ですか」
「うん」
「ありませんね。考えたことも」
「だろうと思った」
彼は自ら死ぬなんて絶対に選ばない。念頭にさえない。だって負けず嫌いなのだから。
「……ですが」
「うん?」
「もしも貴女が、自ら命を絶ってしまったら、その時を想像したら、」
「うん」
「私は貴女の冷えた体をこの腕に抱いたまま、死んでしまうかもしれません」
ぱちぱち。瞬きを繰り返す。彼の目は変わらず大きく開かれたまま。
ふっと、彼の瞳に写る私が柔らかく笑った。
「それはーーとっても、ロマンチックだね」