Lに掬われるはなし/死帳
別に本気で死のうとか思ったわけじゃない。ただ、なんとなく、思い付きで、仕事行きたくないなあとか、そんな軽い気持ちで、ここから転げ落ちて運良く頭を打って気絶でもしたなら、行かなくて良くなるかなあとか、そんな感じで。私はわざと、階段を踏み外そうとした。
「……危ないですよ」
次の瞬間しっかりと握られた腕。ぎょっとするほど白い手。ゆっくり辿っていくと、いつか画面の向こうから恋をした彼がいた。目が合った。どこまでも真っ黒で光のない目。感情の読めない無表情。いつかの私が、大好きだったひと。
嗚呼、また助けられてしまった。