Lが妹について語るだけ/死帳


※謎時空



「妹がいました」

散々殴り合い蹴り合いお互いぼろぼろの傷だらけで心身ともに疲弊しーー死んでいるのに疲れるなんて、おかしな話だーー寝転がっていた時、竜崎、Lは唐突に口を開いた。妹?僕は首を傾げる。あれだけ自分の出生を秘匿してきたこいつが、家族について話し始めるとは。互いに故人となってしまった今、もはや意味のないことだと思ったのだろうか。確かに秘密とし続けることに意味はないだろうが、わざわざ告げる必要性もないだろう。

「私によく似た子です。黒髪に黒目、私よりは薄いですが隈もありました」

思わずLの女版を思い浮かべ、眉を寄せる。が、こいつが言うほどこいつと妹は似ていないような気がした。

「しかしあの子は私とは違いました。あの子は天才ではなかったんです。普通の、いえ、普通よりは良かったと思いますが、ともかく、天才とはとても言えない」
「まあ、すぐ近くにお前がいたんじゃ、余計にそうだろうな」
「ええ、その通りです。あの子はいつも私と比べられて、施設の先生方に出来損ないだと暴言を吐かれていたそうです。……ああ、私と妹は元々孤児で施設育ちなので」
「だろうな」

なんとなくそうではないかと思っていた。あの忌々しいニアとメロの育ったというワイミーズハウス。

「けれど、私はそのことを知らなかった。ワタリに伝えようとした副施設長を、あの子が止めたそうです。私の邪魔をしてはいけないからと。私は私のしたいことを、したいことだけをしていました。だから、そのしたいことの邪魔になることだけはしたくないのだと。……そして私は、気付くことが出来なかった。情けない限りです。兄、失格です」

この男に気付かせないとは、平凡な頭脳の持ち主とは言え、やはりこいつの妹ということだろうか。それとも、単にこいつがそこまでの関心を持っていなかったのか。

「更に情けないことに、私はあの子を突き放してしまった。こどもだったんです。幼かったんです。そうすることで、あの子を守れると思ったんです。とんでもない勘違いだったと、今でこそ悔やんでいますが、当時はそれこそが最善だと信じていました。だから、探偵"L"として活動を始める際、私はあの子に嘘を吐きました。貴女のことはなんとも思っていない、むしろ邪魔だから、金輪際関わらないで下さい、と」
「最低だな」
「ええ、私もそう思います。……あの子はこの言葉を真に受けました。私は嘘吐きですが、あの子は正直な子で、私の言葉を疑ったことなど一度としてなかったんです。あの子はただ一言、わかった、とだけ言って、部屋から出る前に小さな声で、今までごめんなさい、と言って、もう二度と、私の前に現れることはありませんでした」
「……」
「本当は、ずっと見守るつもりでいたのです。遠くからでも、それができるだけの術を持ち合わせていましたから。しかし……あの子はある日忽然と姿を消しました。施設を出、その後の消息を完全に絶ってしまった。私ですら追うことが叶わなかった」

こいつが死んで暫く経った頃、あれは確か雪の日、こいつの墓の近くで出会った女を思い出す。肩甲骨の下辺りまでの黒髪に哀しげに揺れる黒目、その下の隈。寝不足なのだと寂しげに笑う姿。

「あの子は今、どこで何をしているのでしょうね」

死ぬ前に、一目会いたかった。それだけが唯一の心残りです。
自業自得だと僕は嗤った。そして、お前が言うほど似ていなかったよ、と吐き捨ててやりたい衝動をぐっと堪え、僕は目を閉じた。粧裕はどうしてるだろう、なんてことを思いながら。

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