冨岡義勇に告白される/鬼滅


ふと目が覚めた。体が揺れている。未だ僅かに混濁した意識の中瞼を開けると、ぼやけた視界が徐々に鮮明になっていく。……逆さに、なっている。
そこで思い出した。そうだ、任務の最中に気を失ったのだ。鬼が思ったより強かった、なんて何の言い訳にもなりはしないけれど。しかし生きている。誰かが助けに来たのだ。それは十中八九私を担いでいる人物。そして私は、この模様の羽織りをよく知っている。

「……おはようございます冨岡さん。助けて下さってありがとうございます。ええ、それはもう感謝してもしきれません。けれどね冨岡さん。俵担ぎはどうかと思うのですよ。意識が戻った今なら兎も角、気を失っている間は重力に従って首がぶら下がりますから、頭に血が昇ってしまいます。第一、仮にも女性に対して俵担ぎはないでしょう。私だから良いものを、他の女性になどしたら平手打ちを喰らっても文句は言えないですよ。聞いてますか冨岡さん。返事くらいしたらどうーー」
「好きだ」
「なん、で、すか……」

思考停止。数秒の後に働き始めた頭が、漸く彼の紡いだ言葉を咀嚼する。
実を言うと、彼が私に好意を抱いていることは知っていた。あんなにあからさまに示されれば誰でも気付くというものだ。しかし、

「こんな俵担ぎされた状態で告白を受けても、何のときめきも感じませんよ。姫抱……いえ、せめておんぶでも」
「わかった」

とさり、と地面に下ろされる。衝撃はほぼなく、お尻が痛むこともなかった。
すると彼は、目の前でこちらに背を向けしゃがみこんだ。まるでおぶろうとするかのように。否、ようにではなく本当におぶろうとしているのだろう。

「冨岡さん?今のはほんの例えで……私はもう目が覚めましたし、歩いて帰れますから」
「……」
「……」
「……はあ」

埒が明かない。結局、根負けしたのは私だった。失礼します、と一言断って彼の肩に手を置く。途端膝裏に回された手、と思った時にはすでに足が浮いていた。
再び黙して歩き始めた彼の、存外逞しい背中に身を預ける。

「すきだ」
「……本当に、貴方って不器用な人ですね」

くすりと零れた笑みと共に、ほんのり色付いた耳許へ唇を寄せた。

「好きですよ、私も、貴方のこと」

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -