エース長編 | ナノ


結局、本当に一時間目を自習にしてしまったシャンクス先生はそのまま離れた席の生徒たちとお話を始めていた。エースくんはといえばやっぱりまだ不機嫌そうで、悪いことをしてしまったかなと今更少しだけ不安になった。

でも今朝は、来てくれるといいな、くらいの気持ちだったから何だかんだ言いながらも着いてきてくれたのは凄く嬉しい。私なんかが行ったところで追い出されるのが関の山だと思っていたから。

ちらりと左隣を見ると机に頬杖をついて至極眠そうにしながらも携帯をいじっているエースくんがいて、思わず口元が緩んだ。隣に誰かいるのといないのとではこんなにも気持ちが違うのか。エースくんには悪いもしれないけれど
今日はとても良い気分だ。

「……。」
「…………ンだよ。」

何となく目を逸らせずにいた私に気が付いたエースくんがじろりとこちらを見て、どこか気まずそうに呟く。ごめんね、何でもないんです。ただ、嬉しいだけ。だけれどそれを直ぐには言葉に出来なくて小さく横に首を振った。

「……た、大した、ことでは。」
「……あっそ。」
「ただ、」

辛うじて出た一言に返されたそっけない相づち。けれど私が次を言いかけたことに気付いたらしいエースくんは、目線だけこちらに向け「早く言え」と言わんばかりに私を見てきた。一度だけ、小さく深呼吸。そして口を開く。

「……ただ、エースくんが優しいから、嬉しいだけなんです。」
「……………………ハ、」

鳩が豆鉄砲を喰らった顔とはまさにこの事なのではないだろうか、というような呆気に取られた顔をしたエースくんは、数秒そのまま固まった後すぐに、凄く眉間にシワを寄せたしかめっ面を作って「ワケわかんねェ。バカじゃねェの」と呟くと机に突っ伏してしまった。

「朝は、ごめんなさい。帰らないでいてくれてありがとうございます。」

少し遅れてしまった謝罪とお礼を告げると、エースくんは僅かばかり顔を上げる。顔を覆うように置かれている腕から覗かせた表情は相変わらず、険しくはあったけれど。

「帰ると多分うるせェだろ、お前。」
「……そうですね。怒ります!」

次に呆気に取られるのは私の番だった。その言葉の真意はどうであっても彼がその選択をしてくれたという実感が強まると同時にどんどん嬉しくなって自分でもわかる程の満面の笑みでそう言えば、エースくんは何も言わずまた、伏せた腕の中に顔を埋めてしまったのだった。


口下手なの精一杯の弁明
(やっぱり、優しいんですね)






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