昔の事を考えていたら、いつのまにやら鳴り響くチャイムが、午前の授業の終わりを告げる。先程のことを思い出せばまだ腹は立つものの、気持ちは大分落ち着いた。
気怠さは残るが荷物もあるからと教室へ戻ると、ドアをくぐるのとほぼ同時に苗字の姿が視界に飛び込む。反射で顔を逸らしたが、それでもちろりと目だけで窺うと、安心しきった顔をしていて少し驚いた。
「よかった……帰ってなかったんですね……。どこに居たんですか?」
授業を抜け出したおれに怒るでもなく言葉で責めるわけでもなく、苗字は苦笑いを浮かべていて、それを見た途端、自分がいやに幼稚に感じて情けなくなる。
「荷物置いてんだから帰れねェだろ……何処に居たかはおまえには関係ねェ、放っとけよ。」
それを自覚したところで、大人になんてなれるはずもなく。口からでるのは突き放すような冷たい言葉ばかり。いよいよばつが悪くなったがそれでも苗字は表情を変えずに首を横に振った。
「そうは問屋が卸しません!エースくんは、……大事な、幼馴染みですから。」
思わず二の句がつげなくなった。おれはもう、お前の知ってるおれじゃ、ないはずなのに。それなのにどうしてそうも変わらずにいられるんだ。
「……本当、」
「?」
「変なやつ……。」
「っエースくん……!」
ふらめきながら席につき机に伏せたおれに呼び掛けている名前の声が何だかいやに心地よくて、不覚にも目頭が熱くなってしまった。昔のことなんて、思い出したせいだ。
この場所は、暖かすぎて
(不安になるくらい)