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そうしてまた休み時間。朝から止まない悲鳴めいた歓声に辟易してしまって、屋上へと足を向ける。あそこは眺めも良いし風が気持ちよくて、居心地が良いから好きだった。
『───…近づかないで!』
扉まであと数段を残したところで、屋上から怒声が聞こえてきて、思わず立ち止まる。
『何をしたの!?』
『──なにも』
どうやら誰かが言い争っているようで、扉を前に、立ち去るべきか悩んでいると少し低い、女の人の苛立ったような声とスリーライツの声が聞こえた。
「……!?」
「…、!──失敬」
まさかの人物の判明に驚き固まってしまっていると、突然扉が開いて、思った通りの三人が出てきた。ぶつかりそうになり慌てて避けると、人がいるとは思わなかったらしくこちらを見て一瞬驚いた顔をした、大気さんと目が合った。
でもそれも一瞬のことですぐに逸らされ、先程の一言。続いて夜天くん、星野くんも出てきたがちらりとこちらに目を向けるも直ぐに行ってしまった。とても話しかけられそうな雰囲気じゃなくて、三人の背を黙って見送る。
「…あれ、名前ちゃん?」
「月野さん…」
戻ろうとしたら、開いていた扉から見えたらしく後ろから声をかけられた。振り向くと、月野さんと…レーサーの天王はるかさんがそこにいた。
「あ、えっと…」
「…うさぎ。それじゃあたしは行くけど、さっきのこと、覚えとくのよ」
「うん、ありがとう。はるかさん」
天王はるか。この学校にいるのは知ってたけど、こんなに近くで本人を見るのは初めてだ。凛としていて、女の人のはずなのに凄く格好良い。
「名前ちゃんも、屋上にご用事?」
「えっ!…あ、うんちょっと風に当たりに…月野さんは?」
「あたしはねー…って、うさぎでいいよ!」
さっきまで屋上を満たしていた、ピリピリした空気はどこへやら。私たちしか居なくなった今、彼女が笑った途端こちらまで笑顔が伝染しそうだ。
「じゃあ、うさぎちゃん…」
「うん!あ。あたしの用事はねー…」
次の授業が始まるまでの少しの間、うさぎちゃんと色々なことを話した。愛野さんたちとの日常のことや、ここに来た目的のラブレターと、それを宛てる彼の話。生意気だけど可愛いという妹さんのこと。
彼女は私にはない素敵なものを沢山持っていて、とても輝いて見える。正直とても羨ましい、と素直にそう伝えたら「名前ちゃんだってあたしにとって素敵で大切なお友達だよ!」と。彼女が皆に好かれる理由がよくわかった気がした。
「…そろそろ戻ろうか」
「うん!」
行こう!と言う彼女の元気な声に頷いた刹那、急かされ繋がれた手はとても温かくて。
今日、私にとって大切なものが一つ、増えた。