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「…やっぱりスリーライツはいいなあ」
もう買ってから何回再生したかわからない彼らのデビュー曲を聴きながら、そっと目を閉じる。いつもと同じ自分の部屋の自分のベッドもこの時だけはまるでライブ会場みたいに感じられる。
…突如現れ、一代ブームを巻き起こした人気アイドルグループ、スリーライツ。今まであまりアイドルなんかには興味がなかった私が、今やすっかりスリーライツに夢中になってしまっている。
何でスリーライツには惹かれてしまうのか。それはきっと、彼らの歌だ。スリーライツの曲を聴いていると…暖かいような切ないような、不思議な気持ちになる。
「今…どこにいるの………僕のプリンセス、…か」
曲に合わせて歌詞を呟いてみる。強い、想いを感じるこの曲は、もしかすると誰かへのメッセージだったりするのだろうか。
曲を止めて布団に潜り込む。明日も早いんだから眠らないと。学校かと思うと些か憂鬱だけれど。
「スリーライツの夢でも見ないかな……」
…次の日。当たり前だけれどスリーライツの夢なんて見られなくて、それに加えて珍しく早く起きすぎてしまった。もう少し寝ていたかった。
けれどいつもより時間があるというのはやはり良い。支度もご飯を食べるのもゆっくり出来る。そうして普段よりも少しだけ早く家を出れば、気持ちも自然に軽くなった。
校門前に着くと、何やら大勢の女の子の人だかりでとんでもないことになっていた。朝からすごいな、何かあったのかな。ぼんやりと校門の外を見ていると一台の車が停まり、黄色い歓声が一際強まる。
「───…!!」
思わず、目を疑ってしまった。でもきっと無理もない。何せ車から降りてきたのは…あの…
──あの、スリーライツ、だったのだから。
あちらこちらから三人の名前を呼ぶ悲鳴のような甲高い声がして思わず耳を覆いたくなった。けれど、やっぱり今はそれよりも、
「(こんなに近くに…スリーライツがいるっ…)」
その感動と驚きの方が遥かに大きかった。女の子たちの中には、積極的に話し掛けたり、カメラで写真を撮る子までいた。そこまでする勇気は生憎私は持ち合わせてないけど、せめて三人を目に焼き付けておこう。
──しばらく遠巻きに眺めたあと、教室へ向かう。流石にクラスまで同じになることはないだろう。取り敢えずこの学校に来てくれただけで私としては充分だ。
できることなら少しくらいお話ししたり…なんていうのは高望みしすぎか。私には到底手も届かない存在。高嶺の花とか雲の上とか、そんなんじゃ足りないくらい遠く感じる。…と、思っていたんだけど。
「大気光です。趣味は詩の暗唱とコンピューターです」
「夜天光!シュミはカメラ。よろしく!」
「星野光。アメフト部に入ろうと思ってます」
「……おんなじ、クラス」
壇上で自己紹介をする三人を、私は呆然と見つめるしかなかった。だってまさか、そんな。そりゃあ同じクラスになれたらいいなとは思ったけど…!
三人の席は私からは離れていて少しだけ残念だったけど、それどころじゃなかった。これなら、もしかしたら一言くらい話すチャンスがいつか来るかもしれない!
「月野うさぎです、よろしく!」
「愛野美奈子ですうよろしくうっ」
月野さんと、愛野さんが星野くんに挨拶していた。思わず溜め息がでてしまう。月野さんは私にもたまに話し掛けてくれるとても優しくて、元気な子。愛野さんも社交的で明るい。そしてふたりとも、凄く可愛い。というか綺麗?羨ましくもなる。
私も、二人みたいに話しかけられたらなあ…。いつだってチャンスを待つだけで、自分からは動けない。
「……んな上手くいくわきゃないってね…」
「どうしたのよ」
「んーん」
休み時間になると、案の定三人は女の子に囲まれていた。混ざろうかと思ったけど、どうせ話せそうになんてないし何より、わざわざ休み時間に特攻なんてしては三人が休まらないんじゃないかと、囲んでいる子たちは思わないのかな。
彼らだって、アイドルの前に一生徒なんだ。
「…名前ってさ、妙に達観してる時あるよね」
「そうかな」
視線だけはスリーライツに向けたまま、前の席にいる友人にそう告げると、何だか感心したように言われて思わず首を傾げた。
「しっかしまあ、確かに大変よねー。学校でもアイドルの顔してなきゃなんないなんてさ」
「…本当にね」
「ま、そういう私も名前も、スリーライツ好きなんだけどね」
「はは、そうなんだよね」
お互い顔を見合わせて笑う。この子も私と同じでスリーライツは好きらしい。二人で遊ぶときは、よく曲を聞いたり雑誌を読んだりしている。
「…はぁ。でもやっぱり夜天さま格好良い…」
「うん、可愛いよね」
「……名前は星野くんだっけ?」
「え、っと私は…三人で一つだと思ってるし三人が好きだから……まあでも、強いて言えば」
夜天くんも大気さんも星野くんも皆格好良いと思うし、誰が欠けてもスリーライツではないと思う。ただ中でも惹かれたのが、星野くんだった。あの誰かを想い憂うような声に強く心を揺さぶられた。どんな気持ちで歌ってるのかを、知りたかった。
「大切な人が、いるのかな」
私はまだ、何も知らない。